神像のない神殿

「あー……こいつはひでえな」

「随分前に死んだみたいだな」


 そう、神殿の中には恐らく神官のものと思われる骨がたくさん転がっていた。

 神殿と共に死ぬ道を選んだということなのだろうか。しかし、どうやらその願いは叶わなかったようだ。どの骨にも殺された跡が残っていた。


「やったのはレルヴァだろうな。魔力生命体なら入り口が塞がっても侵入できたはずだ」

「ああ。下手すると入り口を壊したのもそうかもな」


 祈りは届かなかったわけだ、と言うアイアースにキコリは曖昧に頷きながら周囲を見回す。

 光が入らないこの場所は、とても暗い。それに関しては「適応」しているから特に問題はないが……レルヴァが紛れていた場合には発見が遅れそうだ。


「行こう、アイアース」

「おう」


 そうして暗闇の中を進みながら、キコリたちは神殿の中を探索する。

 何処に行っても骨が転がっており、その中には神官ではないと思われるものも多くあった。

 此処で虐殺が起こったのも随分前なのだろうが……日誌のようなものを手に取っても、やはり書いてある文字は読めない。

 読めないが言葉は通じる……不思議な話だが、話せないよりはずっとマシなのでそれはそのまま受け入れるしかない。

 複雑な神殿の中を歩き……そうして、ようやく広い場所へと辿り着く。

 荘厳な黄金の装飾が施されたこの場所は、恐らくは祈りの場所なのだと思われるが……神像は、ない。


「な、ない……? まさか壊されたのか?」

「落ち着け。そんな跡はねえ……元々なかったんだろうよ」


 世界が違うのだ。神像のない神殿だってあり得るだろう。

 それに、神像はないが……恐らくは神を現しているのであろう黄金の紋章は存在している。

 これはアイアースの想像になるが、そういうものを印とした信仰の方法なのだろう。


「たぶんだが、この世界では神の姿を像として作らねえんだろうな。その代わりがあの黄金の紋章ってことだろうよ」

「そうか。なら祈ってみるか」

「お、理解が早いじゃねえか」

「理解はしてない。でも、此処は異世界なんだ。そういうこともあるだろうなとは思った」


 そんなことを言いながら、キコリはその場に跪き祈り始める。

 アイアースはそれを見ていたが……なんとなく、真似をするようにキコリの隣で適当に祈りのポーズをとってみる。


(あー……この世界の神さんよ。聞こえてるならさっさと力貸せ。別にこの世界に長居したくはねえんだよ)


 聞いてるかも分からない神に心の中で呼びかけると……アイアースは自分の意識のようなものが何処かへ運ばれるような感覚に襲われる。

 

「……あぁ?」


 その感覚に不快感を覚え目を開いた、その時。そこに居たのは、1人の神々しい雰囲気を放つ男だった。

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