最も不滅に近いドラゴン

 ……そして。確かにキコリのドラゴンブレスはドンドリウスの巨体を大きく削り取った。

 頭部を完全に吹き飛ばし、とてもではないが生きているとは思えない、そんな大戦果。

 だが……それでもキコリには「倒した」という実感がなかった。

 これだけの大戦果を前にして、どうしても勝利の喜びが湧かないのだ。まるで、勝ってなどいないと本能が警告しているかのように。

 無論、ドンドリウスがソイルレギオンのような群体だとは思わない。ドンドリウスはドラゴンなのだから単体であるはずだ。

 だから、これで大丈夫なはずだと自分を納得させながらキコリはその場に膝をつく。


「ぐっ、ごふっ……」

「ヒール! キコリ、すぐに治すから……!」

「あ、ああ。オルフェがいなきゃ、こんな無茶は、できなかったな」

「本当はそんな無茶なんかしないのが正しいのよ? 今更だけど」

「ふふ。そうだな、確かに今更だ」


 オルフェのヒールで傷を癒しながら、キコリはドンドリウスを見る。

 頭を吹っ飛ばされたドンドリウスは動かず、デミユグドラシルに殴られるままだ。

 やはり死んだ……のだろうか?


「それにしても、こうなるとユグトレイルの加護も役に立つわね」

「ああ」


 ユグトレイルの加護があれば、トレントには襲われない。それが分かっていたからこそ、キコリは今回の作戦を思いついた。実際、どれだけドンドリウスを押さえてくれるのかは未知数だったが、想像以上にドンドリウスを押さえてくれていた。まだ怒りが収まらない様子のデミユグドラシルに、キコリは小さく微笑む。


「利用した形になったけど、ありがとう。おかげで」


 メギャッ、と。凄まじい音をたててデミユグドラシルの幹がへし折れる。木屑を撒き散らしながら吹き飛んでいくデミユグドラシルは一瞬で残骸へと変わり、それをやったのは間違いなく頭部を失ったドンドリウスだった。


「ああ……こんな屈辱を受けたのは久しぶりだ」


 削れた跡が盛り上がり、ドンドリウスの頭部が再生していく。それは先程さんざん見た、ドンドリウスの土人形が地面から生えるのと酷似していた。


「知識や美というものを追求し始めてから随分たつが……そうすることで余計なことも考えるようになってしまったようだ」

「ドンドリウス……それが本体ってのは嘘か……!?」

「まさか。この身体は間違いなく私のものだとも」


 ドンドリウスの身体は完全に修復され……それだけではなく、更に凶悪な形へと変化していく。

 それは、まるでこれからが本当の戦闘だと言っているかのようで。


「改めて自己紹介しようか。私は創土のドンドリウス。この地上において、最も不滅に近いドラゴンだ」

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