面倒事の種

「そうなの?」

「まあな」


 オルフェの問いかけに、キコリもそう答える。

 冒険者と防衛都市は切っても切れない関係だ。

 むしろ冒険者と言えば防衛都市であり、他の町にいる冒険者は冒険者というよりは「何でも屋」と言った方がいいだろう。


「ただ、そのアサトという人物……ちょっとばかり危険かもしれませんねえ」

「どういうことですか?」

「アサトの敵対者は、大抵破滅しています」

「……は?」

「何と言えばいいのでしょうね。原因は色々ありますが、結果として死に至ることが多いようです」

「そいつが犯人でしょ、それ」

「証拠はありません」


 オルフェのツッコミにパナシアは肩をすくめてみせる。

 しかしまあ……本当にせよ嘘にせよ、あのアサトという男に対する警戒を高めるには充分すぎる話だった。


「彼に絡まれたというのであれば……まあ、注意した方が良いかと」

「……分かりました」

「では、私はこれで。もし今日の話が何かの役にたったのであれば、今度昔話でも聞かせて頂ければ幸いです」


 足取り軽く去っていくパナシアを見送ると、キコリはオルフェと顔を見合わせる。


「どう思う?」

「どっちも要注意」

「だよな」


 あのアサトとかいう男に注意するのは当然だが、パナシアも正直胡散臭い。

 親切心だと思いたいが、キコリのアサトに対する不信感を煽った可能性だってある。

 彼の話を全て信用する……というわけにはいかないだろう。


「ゴブリンに襲われて逃げる割には1人で帰るし……それに……」

「それに?」

「ゴブリンは木登り出来るだろ」

「あー、そういえば」


 木に登って逃げる手が通じるのは獣相手であり、ゴブリンに通じるはずもない。

 だとすると、パナシアはゴブリンに追われて木に登ったのではなく……パナシアが木に登った後にゴブリンが来た、というのが正解なのではないだろうか?

 そのことに同時に思い至り、キコリとオルフェは頷きあう。


「あの人にも出来るだけ関わらないでおこう」

「あいつぶっ殺しましょ」

「……」

「……」


 無言で見つめあうと、オルフェがビスッとキコリの顔を突く。


「いや、今おかしいのは確実にオルフェの方だったぞ!?」

「どーせ面倒事の種でしょうが。最初から殺した方が早いわよ」

「その理屈は変だし、殺した方が面倒になるタイプの人だろアレ」

「あー。確かに変な搦め手使ってそうね」


 頷くオルフェが納得しているのを感じながら、キコリは溜息をつく。


「……こっちに帰ってきたら、そういうのとは無縁だと思ったんだけどな」


 面倒ごとに首を突っ込みたいわけではない。なのに面倒事からやってくる。

 その事実に……キコリは、僅かな疲労を感じていた。

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