これでも信用商売です

「まあ、想像ですけど。そうかな、と」

「ハハ……まあ、隠すことでもありませんが」

「でも隠してたんでしょ?」

「これは手厳しい」


 オルフェの冷たいツッコミにパナシアは苦笑する。


「隠す事ではない……のですが。あからさまに情報を取り扱いますと言えば、口の堅くなる御仁も多いモノでして」

「まあ、そうでしょうね」


 それはそうだろう、とキコリは思う。お前の情報を売るから寄越せと言われて「はい喜んで」と言う者が何処にいるのか。実際キコリも、ちょっと警戒してしまっている。


「しかしまあ、あまり警戒されなくても良いのですがね。私達は確かに情報屋の側面もありますが、逆に言えば調べられる程度の情報しか取り扱わないのですから」

「詭弁じゃないですか?」

「ハハッ……お、そうです!」


 困ったように笑うパナシアだったが……そこで思いついたように手を叩く。

 こうした動作が一々芝居臭くてオルフェが「ウザ……」と呟いているのだが。


「では信頼関係の為に、何か欲しい情報を提供するというのは。まあ、私が知っている範囲になりますが」

「え? いや……んー……」


 特にない。そう言いかけて、キコリは少し考える。


「……提供したんだからそっちも何か提供しろとか言いませんよね」

「言いません。これでも信用商売です」

「……」


 考えて。キコリは、1つだけ聞いてみても良い事があったのを思い出す。


「そういえば昨日、アサトとかいう人に少し絡まれまして。もしかして有名人だったりします?」

「アサト」


 その単語に、パナシアはピクリと眉を動かす。


「これはこれは。また面白い名前が出てきましたね」

「面白い?」

「そんなに面白い名前かしらね」

「ハハハ。いやいや、その名前は今少しばかり有名でしてね。脅威の速度で金級冒険者に駆けあがり、しかし彼が何処の出身かも分からない。謎多き人物ですよ」

「出身不明……ですか」

「はい。ジェキニの町で冒険者登録した辺りまでは足取りを追えてるみたいなんですけどね。そこから以前がサッパリです。まあ、成り上がった人の『それ以前』なんて追えるのが珍しいんですがね」


 誰も注目しないせいで記憶にも残りませんから、とパナシアは笑う。

 まあ、そういうものかもしれない。キコリ自身、似たようなものではあるだろう。

 突然全く違う世界に飛び込んだのだ、それ以前など誰の記憶にも残らない「その他大勢」でしかない。


「此処に、何しに来たんでしょうね」

「さあ。ですが冒険者が防衛都市に来るのは珍しい話でもありません。自分の実力を試したいなら特に……ね」

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