吟遊詩人の副業
言われて周囲をキコリが見回すと……葉っぱなどをくっつけた汚い布を被っているゴブリンと目が合う。偽装して隠れていたようだが、目が合ったと気付くと同時にゴブリンが勢いよく起き上がる。
「ギイイイイイイイ!」
剣を振りかざし襲ってくるゴブリンを、キコリは踏み込み真正面から叩き切って。
その姿に、木の上から吟遊詩人が「おおー!」と拍手する。
「これは凄い! 恐れのない一撃……ゴブリン程度問題ではない、というわけですね!」
「俺のことはさておいて……ゴブリンは倒しましたけど、降りて来られます?」
「ええ、勿論です!」
吟遊詩人は枝から幹を伝ってにじにじと降りてくるが……無事に降りてくると服についた汚れを払い、物凄い速度でキコリたちににじり寄ってくる。
「貴方がキコリ、そしてそちらが妖精さんでよろしいですかね!?」
「うわウザ」
「あー……とりあえず、まずは貴方が誰からか教えて頂けると」
「おお、これは失礼いたしました!」
吟遊詩人はそこで初めて気付いたとでも言うかのように一歩下がると、帽子をとって一礼する。
その動きは芝居じみて手慣れていて、何度もやっているポーズなのだろうと思わせた。
「私はパナシア。吟遊詩人をやっています。王都で近頃人気の歌のネタを探り、もっと深掘りしておこうと思いまして。いやあ、雰囲気を探りに来たら本人に会えるとは。これこそ楽神の導きと言えましょう」
「導きとかは分かんないですけど……まあ、何しにきたかは分かりました」
「喋る度に動くのは何なの?」
「吟遊詩人のサガのようなものです。ご容赦を」
まあ……良い人か悪い人かはともかく、変な人ではあるようだとキコリは思う。
それとも吟遊詩人とは皆「こう」なのだろうか?
「俺はキコリ。こっちがオルフェです」
「別に覚えなくていいわよ」
「いいえ、覚えました。妖精さんのお名前については情報もなく……いやはや、これで他に1つ先んじたというわけです」
フフフ、と満足そうに吟遊詩人……パナシアは言うが、名前などなくても歌えるだろうに、その辺りはやはり情報屋という側面があるのだろうかとキコリは思う。
……なので、キコリはその想像を確信に変えてみようと思い立つ。
「それって、やはり俺とかオルフェの名前を情報として売るんですか?」
「んっ!」
パナシアの笑顔が固まり、咳き込み始める。痛いところを突かれた、とでも言いたげだ。
しばらくゲホゲホとやっていたパナシアは、少しばかりきまりの悪そうな笑顔を向けてくる。
「こ、これは驚きました。吟遊詩人の副業をご存じでしたか」
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