それには理由があるのですが
そもそもキコリだって、上手く説明できるわけではない。
吟遊詩人とは「旅先で歌って報酬を貰う人」くらいの知識しかないのだ。
まあ、それでキコリとオルフェを歌にしているなら、噂話を広める人……ということでも良いのだろうか?
森の中を歩きながら、キコリはそんなことを考える。
噂話を広める人。報酬を貰う人。それは……。
「……あっ、そういうことか?」
キコリはそこで思いついて声をあげる。あちこちで噂を集めて歌う。
尾ひれも当然つくのだろうが、つまるところ色々な「人が欲しがりそうな情報」を集める専門家でもあるのだろう。
誇張された「歌」ではなく真実を……少なくとも吟遊詩人が認識している真実を知りたい人がいれば、吟遊詩人に金を払えば教えてくれるはずだ。
つまり、吟遊詩人とは。
「情報屋なんだ。各地の情報を集めて売って、ついでに歌も歌う……そういう商売って事か」
「そういうもんも人間は売り買いするのね」
「妖精にも似たような文化ないのか? いい事教える代わりにー、とか」
「ないわよ。良い情報は皆で共有するに決まってるじゃない」
「……平和だな」
「まあね。金払わなきゃもったいぶる人間とは違うのよ」
フフン、と自慢気に言うオルフェだが……その左上辺りの方角から「ハハハ」と笑い声が聞こえてくる。
「まあ、そんな側面がある事は否定しませんが。そればかりと思われるのも困りますねぇ」
「……何してるんですか?」
「うわ、変なのいる」
キコリたちがその方向を見上げれば、そこには木の枝に座り楽器を抱えている男が1人。
何処からどう見ても吟遊詩人といった風体だが……こんなところで何をしているのか?
「ええ、ええ。今一番売れる『少年と妖精の物語』のネタを仕入れに来たんです。これでも吟遊詩人ですので?」
「これでもっていうか、どう見ても吟遊詩人ですけど……」
「おや、それは嬉しい。吟遊詩人は一目でそう分からないと不審者ですからね。こだわってるんですよ」
「あー……」
まあ、怪しい風体の人間が楽器を持ってきても普通は怪しむ。どの程度「やれる」のか疑うだろう。
しかし如何にも吟遊詩人です、といった格好の人間であれば「ああ、歌うんだな。歌えるんだな」と大体の人間は思う。
吟遊詩人が「それらしい」恰好をしているのは「吟遊詩人という共通イメージ」を纏っているからなのかもしれない……などとキコリは考えてしまう。
「だとしても、どうしてこんな所に?」
「ええ、それには理由があるのですが……」
吟遊詩人の男はそう言うと、周囲を軽く見回す。
「モンスターに追われて此処に登りまして。まだその辺に居ませんかね、ゴブリン」
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