馬鹿じゃねえの
キコリはその状況を見ながら、まだ斧を構えない。此処でそれをすれば戦いになる。そう感じていたからだ。しかし、ドンドリウスの態度は一切変わらない。
「君はこう考えているだろう。此処では戦う意志を見せないのが正解だ、と。しかし君は同時にこう考えている。どうやれば私に……ドンドリウスに勝てるかと。実際、勝てると思っているのではないか? 君の隣にはそのアイアースがいる。余裕の正体はそれだろう」
「何を、言って……!」
「アイアース。君はどうだ? その隣にいるモノは恐らくゼルベクト……世界を歪めた主因だ。ここで滅ぼしておくのがドラゴンとしての責務では?」
その言葉に、キコリはゾッとする。この状況でアイアースまで敵に回れば、もはや生き残る道があるかどうか分からない。だから葛藤する。どうする。此処で今、全力で一撃を入れれば……あるいは。
「あ? 馬鹿じゃねえの?」
「「は?」」
アイアースの放った一言にドンドリウスが、そしてキコリが同じ声をあげる。
意味が分からない。理解できない。アイアースが今、何を言ったのか。何を考えているのか。
「グチャグチャと抜かしやがって、結局キコリは竜神が認めたドラゴンだけど、お前がそれを気に食わねえってだけの話じゃねえか。そこに屁理屈をゴテゴテと飾りやがって、お前俺様の脳の限界でも試してんのか」
「いや待てアイアース。これはそんな単純な話では」
「単純な話なんだよドンドリウス。キコリの出自がどうだろうが、竜神が『汝、ドラゴンなり』と定めたんだ。そこにどんな戯言を飾ろうと、戯言の域を超えやしねえんだ」
「アイアース! 君はこの世界を」
「ドンドリウス。ドラゴン同士で争うのは珍しくねえ……だがそこにお前は竜神を、ひいては大神の否定をも混ぜた。こいつはどう考えても普通じゃ……いや、正気を疑う話だ。よりにもよってドラゴンが神の否定をやらかしたんだ」
ドラゴンは竜神に認められしもの。世界の力を使うことを許された、世界最強の存在。
そして……誰よりも神々に敬意を払うもの。そんなドラゴンが神を否定した。
それが普通であるはずがない。ならば、普通ではない。それが意味するのは。
「何を言っている。私は何もおかしくはない。いや、神を疑わない方がおかしいだろう。あらゆるものに疑問を持つのは生物としての」
「ドラゴンじゃなければその理屈は通用しただろうよ」
アイアースはこれ見よがしな溜息をつくと、三叉の槍を構える。
「キコリ、構わねえよ。斧を出しな。まずはコイツが本物かどうか確かめるとしようぜ」
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