大海嘯

「ああ、どの道戦いは避けられない。なら、やるしかない……!」

「愚かしい……かかれ!」


 ドンドリウスの命令と同時に衛兵モドキたちがキコリたちへ一斉に襲い掛かり、しかしその攻撃地点から2人は跳んで躱す。


「ミョルニル!」

「トライデント!」

「ファイアショット!」


 電撃纏う斧と水流を纏う槍が炸裂し、オルフェの放つ無数の火弾が衛兵モドキの鎧を貫いていく。

 だが、そのオルフェの魔法に耐えた衛兵モドキが1体。特別製だと、キコリはすぐに察して落下の勢いすら利用して無理矢理その方向へと足を踏ん張り跳ぶ。当然のようにかかる足への負担はキコリに痛みとして伝わるが、ほぼ本能的にそれを無視して斧を振りかぶる。


「オオ、オオオオオオオ!」


 使うのはミョルニルではない。ドラゴンとしての基本戦法。その無双の切れ味を誇るドラゴンクローの理論。すなわち……その斧に強大な魔力を注入して放つ一撃。バターよりもアッサリと特別製の鎧を引き裂けば、キコリへと数体の弓衛兵モドキが矢を放ち、キコリの鎧に弾かれる。


「こんなもの!」

「そうだな、そんなものだ」


 ドンドリウスの言葉が響き、キコリの足元からぐるりと逃げ場を塞ぐように生えた無数の刃が伸びてキコリを刺し貫く。

 そう、これもまたドラゴンクロー。同じドラゴンの攻撃であればキコリの防御を貫くことなど造作もない。


「が、はっ……」

「キコリ!」

「チッ! オラア!」


 アイアースの投げた三叉の槍をドンドリウスは展開した障壁で弾き返し、オルフェとドドの背後に衛兵モドキを生み出していく。


「ぬ、おおおお!?」


 ハイオークに進化したドドですら、ドラゴンの生み出した傀儡の前では楽勝で勝利などというわけにはいかない。それでも盾を構え攻撃を防ぐドドは、かなり頑張っているほうだろう。


「少しでも思わなかったのかね。この町は私の領域そのもの。そんな場所で私に君たちを圧殺できる手段が用意されていると。本当に少しも考えなかったのかね?」

「うるせええええええ!」

「ぬっ!?」


 手元に戻ってきた三叉の槍をアイアースが再度投げつけるとドンドリウスの障壁を破壊はやはり出来なかったが、大きく揺らがせる。


「俺様はなあ、そういうの考えんの苦手なんだよクソが! おいチビィ!」

「何よ! この剣、ちっとも壊れない……!」

「いったん全部ご破算にしてやる! あとはお前がカギってやつだ!」

「はあ!? 何を……」

「ドォンドリウウウウス! テメエこそ考えなかったみてえだなあ! 俺様を追い詰めたらどうなるかってことをよおおおおおお!」

「う、おおおおおお!? アイアアアアアアス!」


 瞬間。キコリを貫き捕えていた剣が全てへし折られ、キコリが、そしてオルフェとドドが巨大な触手にからめとられる。そして同時に、巨大な何かによって城そのものが内部から爆発するように消し飛んでいく。

 そう、それは巨大化し変化したソレに耐えきれず消し飛んだのだ。その、巨大なクラゲにも似たドラゴン……真なる姿の「海嘯のアイアース」にだ。


「ハ、ハハハッハア! ご自慢の玩具と一緒にしばらくどっかに流れていきやがれえええ!」


 アイアースが生み出したのは、海のないはずのこの地に突然現れた大津波。

 そう、アイアースの象徴たるその大技「大海嘯」。あらゆる全てを押し流す文明の大敵は、この場を無慈悲に押し流し……その中で、当然のようにオルフェの意識も遠くなっていった。

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