あるいは夢

 それが、いつのどんな光景なのかは分からない。あるいは夢、なのだろうか?

 けれど、どうやら「自分」は誰かと戦っているようだった。

 その相手は、悪魔王レーゲインと呼ばれた男。

 モンスターであり魔力生命体である「悪魔」の王として1つの国を築き上げた男でもあった。

 だがその王都は崩れ去り、戦場には人間の軍の死骸が無数に転がっていた。

 そう、これは決戦の光景だ。


「魔王レーゲイン! 正義の為、お前を倒す!」

「何が正義だ、何が魔王だ! 恐るべき異界の悪鬼め、見事世界を混乱に陥れたな!」


 2つの剣がぶつかり合い「自分」とレーゲインは互いに距離をとる。

 レーゲインは深い傷を負っており、この戦いの結末も恐らくもうすぐ……そう思われた。


「レーゲイン……俺だってこんなことはしたくなかったんだ。だが、こうするしか道はなかった……!」

「セージとか言ったか。貴様の言葉は軽い、軽すぎる! そんな貴様の甘言に此処までの数の人間が乗ったのは確かに誤算だったが……すでに残すは貴様1人。貴様を倒し、その背後にいるであろうゼルベクトに備えねばならぬ!」

「ん?」

 

 その言葉に、セージは……「自分」は、ピクリと反応した。そう、何故ならば。


「なんだ。知ってたのか」

「何……!?」


 溜息をつくと「自分」は、剣をカランと投げ捨てる。各種族の中でも最高の鍛冶屋が共同で作り上げた最高の剣、至剣カラルベルグ。そういう名前のゴミに、もう用は無いから。


「何処からその名前が漏れたかは知らないが……まあ、あの女が何処かに残してたんだろうなあ」

「貴様、まさか」

「そうだ。此処の神々にバレずに入り込むのは苦労したがね」

「ゼル、ベクト……!」

「ああ。初めまして。俺がゼルベクトだ」


 挨拶と同時に「自分」は……ゼルベクトはレーゲインが咄嗟に反応し振るった剣を砕き、そのまま顔面を掴む。


「ぐ、あ……!」

「結構頭を使ったと思ったんだが……上手くいかないものだな。まあ、此処まで行けばもう関係ないのかもしれないが」

「もう入り込んでいたのか……! そうか、転生者とは貴様の隠れ蓑だったか!」

「ああ。異質な魂が普通に入り込むようになれば、俺がそれを装っても簡単には気付かれない。特に今回は囮もそれなりに、な?」


 そう、ゼルベクトと共に「転生」した幾つかの異世界の魂。どれもそれなりに混乱や発展を加速させたが……その全ては、「自分」が……ゼルベクトがこの世界に入り込む為の囮だった。

 出来ればこのまま全てを破壊に導くつもりだったが……もう同じ事だろう。どうせこの場には、もう。


「……馬鹿め」

「何?」

「たとえ貴様が神々の目を欺こうと、自白だけはすべきではなかったのだ」

「なんだ。生き残った悪魔でもいるのか? そんなもの」

「そんなものとは違う。貴様の自白をアレは聞いているぞ」


 空の彼方から、何かが飛来する。黄金の鱗を持つ、巨大なソレは。


「世界の守護者が来る……! 『不在のシャルシャーン』が! もう貴様は終わりだ!」


 手の中から放出したエネルギーでレーゲインを消滅させると「自分」は歓喜に似た感情に包まれる。


「なるほどドラゴンか! ハハ、ハハハ! 来るがいいドラゴンよ! お前を殺し、世界の終わりの合図としよう!」

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