そうしたら、オルフェがまた

 それは、世界の終わりの如き光景。

 結果として黄金のドラゴンに「自分」は消し飛ばされ、黄金のドラゴンもまた微塵となって世界に散った。そして、世界には消えない傷痕が刻まれた。

 その光景を最後に、キコリは目を覚ます。夢、というにはあまりにもリアルすぎる夢。

 いや、そうではない。アレは恐らく……キコリが転生する際に漂白しきれなかった記憶。

 あるいは、漂白したはずがまた浮かんできた記憶。


「キコリ、目が覚め……どうしたの、泣いてるの?」


 そう、上半身を起こしたキコリの目からは静かに涙が零れ落ちていた。それは、理解してしまったが故。

 受け入れてもらえなかった自分は、そんな資格などなかったのだと思ってしまったが故。

 悪魔憑き。そう呼ばれていた自分は……もっともっと、忌むべき存在だったのだ。


「オルフェ。俺は、ゼルベクトだったんだ」

「え?」

「砕かれたゼルベクトの魂を集めて作った転生者。それが俺だったんだ」

「ちょ、ちょっと!? 意味が分からないわよ!?」


 オルフェは慌てたように手をパタパタと振ると、意を決したように人間サイズに変化し、キコリをぎゅっと抱きしめる。


「いいからまずは落ち着きなさい。それで、順番に話して。アンタが寝てる間に何があったってのよ」


 背中をトントンと優しく叩かれ、キコリはその暖かさに身を委ねそうになる。

 しかし、すぐにオルフェを両手で引き離し、その目を見つめる。


「空間の歪みに汚染領域。それを作ったのが人間だって話をしてくれたよな?」

「あー、そうね」

「それをやったのが前世の俺だ……今から、順番に話していく」


 キコリは夢の中で見た光景を1つずつオルフェに話していく。

 ゼルベクトを名乗る、異世界の恐るべき力を持つ「何か」の名を。

 それが自分であるのだろうという話をするに至り、オルフェは「んー……」と悩むような様子を見せる。


「まあ、言いたいことは理解したわ」

「ああ」

「で、それが何?」

「な、何って……俺みたいなのは」

「うっさいアホ。魂が転生して巡るなら、どんな悪人だって生まれ変わったら綺麗。それだけの話じゃないの。しかもアンタの場合、それが上手くいかなくて苦労したんでしょ?」

「そう、だけどな」

「ほんっと、アンタはそういうとこ強くなっても治らないわよね」


 まあ、そうかもしれない。強くなって、強くなって。ドラゴンになって、世界を滅茶苦茶にした奴の転生者かもしれないという状況になって、悩みは増すばかりだ。


「いい? アンタが何であれ、どうであれ。このあたしが許すわ。アンタは妖精女王たるこのオルフェのパートナーとして恥ずかしくない男よ」


 キコリと向き合うオルフェは、キコリから視線を外さない。しっかりと向き合って、その瞳の奥を覗き込む。


「いつでも自分以外の何かの為に死にかけて。いつも何かを失い続けて。それでも命を賭け続ける馬鹿のトップ。それがアンタよ。前世が邪悪だろうと破壊神だろうと、今は違う。今のアンタはドラゴンのキコリで、このアタシのパートナーのキコリ。それ以外の全部は捨てなさい」

「……それは無理だ」

「アンタねえ……」


 言いかけたオルフェは、気付く。キコリの瞳に戻った、強い……キコリらしい、意志の光を。


「俺は頭が悪いから。だから、全部抱えて生きる。そうやって、前に進む」

「それでまた転ぶの? 何かをまた失くしながら」

「そうしたら、オルフェがまた手を引いてくれるか?」


 その問いにオルフェは「仕方ないわね」と微笑む。それは疑いようもなく、2人を結ぶ絆がまた1つ強くなった瞬間だった。

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