理解できないもの

 そうして焚火の火がパチパチと音を鳴らす中、キコリとアイアースは交代で見張りをしていた。

 今は丁度キコリの番で、アイアースは静かに寝息を立てて寝ていた。

 その寝顔をなんとなく見ていたキコリに、ルヴが話しかけてくる。


「主よ。こんなことをせずとも、私たちが幾らでも見張りをしますのに」

「ダメだ。アイアースがまだお前たちを信じられてない」


 そう、アイアースはレルヴァを信用していない。

 あくまでキコリに従っているだけであり自分の仲間ではないということを理解できているからだ。

 もっと言えば、レルヴァたちはルヴ含めて「アイアースは見殺しに出来る」のだ。キコリが言えば従うだろうが、それでも言い訳がつく程度にしかやらないだろう。

 それも言い聞かせればいいという話ではあるのかもしれないが「そういう相手」をアイアースは信用しない。

 裏を返せばキコリのことは信頼しているということだが、そういうことであればキコリが頑張るしかない。

 だからこの時間を持て余さない為にも、キコリは何かしようと考えて……しかし、特にできることいもないと気付いて小さく溜息をつく。

 そんなキコリを気遣ったのか、ルヴは「お暇であれば何かお話でもしましょうか?」と声をかけてくる。


「話、か……何の話がいいかな」

「そうですね。では主よ。貴方の話を聞かせてください」


 自分の話。それもまた難しいな、とキコリは思う。

 防衛都市ニールゲンに流れ着いてからは死にかけるようなことの連続だったが、ルヴに面白いかは別だろう。

 だから、キコリは破壊神のことを話題にしてみようと考える。


「ルヴ。俺は破壊神の生まれ変わりだけど、その記憶もないし衝動もあまり理解できない」

「でしょうね。しかし、それがどうかされましたか?」

「破壊神は……ゼルベクトは、壊した先に何が欲しかったんだ?」


 そう、それが分からない。世界を壊して、壊し尽くして。そこには何も残らないのに、どうしてそんなことをしているのか?

 キコリとて敵対した相手を殺すことはしてきた。しかし、それとて明確な目的があってのことだった。なのに、破壊神のそれには目的が見えないのだ。


「何も」

「何も? 何も欲しくなかったってことか?」

「主よ。そういうことを考えられるモノになったことをお祝い申し上げます。しかしながら『理解できないもの』は存在します」

「いや、相容れないものや理解が及ばないはあっても理解できないものなんてないだろう」

「ございます。主様風に言うのであれば『理解できてはいけないもの』は存在するのです。破壊神とはそういうものです。そしてそういったものは『身勝手さ』とは非常に相性が良い……」


 身勝手さ。それはキコリが今まで会った転生者たちもそうであるのかもしれない。

 転生ゴブリンは、仲間のゴブリンから魔石を奪っていた。

 転生トロールは、自分の進化のためであれば他などゴミのように思っていた。

 アサトは……よく分からないが、黒い噂が多いようだった。

 魔王は、ゴミクズ野郎だ。次に会うときは殺さねばならない。

 

「……なるほど、なんか理解できた気がしてきた」

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