今回の主因

 ドンドリウス……『創土のドンドリウス』。キコリと一戦やらかしたドラゴンだが、彼もまたゼルベクトの力の影響を受けていた可能性があった。今は恐らく大丈夫らしいが……どうだか分かったものではない。

 『裂空のグラウザード』に到っては隙をつかれてゼルベクトの転生者の僕になっていたのだから、オルフェは一番頼れるのは『海嘯のアイアース』なのではないかと思っているくらいだ。


「アイアースのほうが遥かに役に立ってるけど? 見込み甘すぎるんじゃないの」


 勿論オルフェは一ミリも我慢せずにそう言い放つが、それにシャルシャーンは苦笑で返す。実際、シャルシャーンとしてもそれに反論する言葉はもたない。


「確かにね。頼れるはずの他のドラゴンたちの中でボクは正直ドンドリウス以外にあまり期待はしていなかった。特にアイアースは全然ダメだと思ってたんだけど……いやはや、分からないものだね」

「そういう思考だからダメなんでしょ? 確かにアンタは世界を守ってるのかもしれないけど、それ以外は等しく見下してるもの」


 その言葉に、シャルシャーンの笑顔は凍り付く。それは図星であることをこれ以上なく示していたが、オルフェからしてみれば初見で分かっていたことだ。


「妖精だって……あたしだって似たようなもんだから分かるのよ。あたしはキコリと同じ妖精の仲間以外は結構どうでもいいと思ってる。まあ、例外はドドと……アイアースも含めてもいいかもしれない。でも、アンタはそういうのないでしょ? 神様と世界が無事なら他は『死んでもいい許容範囲』程度でしかモノを見てない」

「……ハハッ」

「キコリは『こう』なってもまだアンタの1000倍はマシよ? 自分の懐にあるものを守ろうっていう意思がある」

「いずれ彼もボクと同じになるさ。あるいは、もっと冷酷なモノになるかもしれない」


 シャルシャーンは笑顔のまま……しかし酷薄なモノに変えて、そう言い放つ。


「ボクがキコリの異名をつけたときのことを覚えているかい?」

「アンタのソレでドンドリウスと敵対したんでしょうが。このクズ」

「そうだね。でも正しいと思っているよ」

 

 シャルシャーンはそのときを思い返すように、朗々と歌い上げる。


「無数の死を積み上げ、自らも常に生と死の境にて彷徨うもの……すなわち『死王のキコリ』! そうだ。何も変わらない。今回も彼の介入によって王都ガダントのドワーフは全て死んだ」

「それは違うでしょ!? アサトが結局は殺してたはずよ!」

「そうかな? キコリが場を引っ掻き回したことで王は次元城の活動を早め、それがアサトにも大きな行動をとらせる結果になった」

「結果論よ。あのときあの場で何もしなかったアンタが言っていいことじゃない」

「そうさ結果論だ。しかし結果が全てだ。王都のドワーフは滅び、今後アダン王国を中心に人類社会は大きく揺らぐだろう。またしても無数の死の上に彼は立っている。望もうと望むまいと、キコリは何処までも破壊神だ。人間として生まれ変わっても、ドラゴンになっても」


 オルフェの放った光線を、シャルシャーンは避けることすらもしない。そして当然のようにダメージは……ない。


「そうね。結果としてアンタは今回全てが終わるまで何もしなかった。事情も何もかもを考慮しないでいいなら、アンタがさっさとアサトをブチ殺さなかったことが今回の主因よ」

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