アイアースが思うよりも危険な何か

 分かるに決まっている。ドラゴンにとって「エゴ」とは自分の根幹だ。それに逆らうというのは自己否定も同然の行為。だからこそドラゴンが自分のエゴに反する行動をすることは絶対に無いと言ってもいい。

 しかし、ヴォルカニオンはキコリのためにそのエゴを僅かながら抑え込んでいるという。自分の根幹に逆らっているという。

 有り得ない、有り得ないことだ。しかし有り得ている。

 これは譲歩だとか身を切る思いだとか、そんなどうでもいいカスのような何かと違う、ドラゴンの存在そのものに関わる問題だ。

 だが、それをヴォルカニオンはやっけのけた。他でもないキコリのために嫌いなアイアースの言葉を聞いて、だ。

 それは……同じドラゴンとしては驚愕と、尊敬に値するものだ。アイアースの口からも素直な賞賛以外の何も出てこないようなことだ。

 ならば、アイアースとしてはヴォルカニオンに付き合うしかない。

 勿論半殺しなどというのは却下だが、ある程度満足させなければこの戦いは終わらないだろう。


「半殺しだ何だってのは俺様のエゴに関わる話なんでなあ! 譲ってもらって悪ぃが、こっちは譲る気はねえぜ!」

「ハハハ、構わん!」

 

 ヴォルカニオンの吐く炎を避けながら、アイアースは三叉の槍に水を纏わせる。それはキコリとの付き合いの中でアイアースが何度も使うようになった魔法だ。


「トライデント!」


 投擲された三叉の槍は水を纏いながらヴォルカニオンへ命中し、しかしその竜鱗に弾かれる。まあ、当然の結果ではあるがアイアースとしては思わず舌打ちしてしまう。


「チッ、効かねえか!」

「今のは人間の魔法か!? 貴様がそんなものを使うとはな!」

「旅の思い出ってやつだよ! オラもう一発だトライデント!」


 手元に戻ってきた槍でもう一発トライデントを放つと、アイアースは空いた手に光の槍を生み出す。これもまたキコリと共にいる中で覚えた魔法の1つだ。


「もう1発くらいな……グングニル!」


 投げた光の槍はヴォルカニオンの表面で大爆発を起こし、当然のように効いていない。当然だ。無限の魔力による攻撃と無限の魔力による防御。決着などつくはずがない。だからこそアイアースはかつてキコリに聞いた話の中で唯一理解できなかった話を思い出す。

 シャルシャーンの分体を倒したという、その話。てっきりそれが死にたがっていてそうなったのかと思っていたが……もしかすると、キコリのあの「ブレイク」は、アイアースが思うよりも危険な何かなのではないだろうか?

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