その律義さだけは

 だが、そんなアイアースの思考などヴォルカニオンからしてみれば関係はない。


「ハハハハハハ! 面白い、面白いぞ! その姿で何処までやれるアイアース!?」


 吐かれた炎を避けながら、アイアースはトライデントとグングニルをぶつけていく。大海嘯を使えれば多少は話が違うのだが、ヴォルカニオンの魔力で染められたこの場所では水の力自体がほぼ存在しない。まあ、それでも使えないわけではないが……使えばヴォルカニオンは本気になる。

 万が一ドラゴンブレスの撃ちあいになれば、本気の殺し合いに発展してしまう。


(ああ。分かった。分かったぞシャルシャーンの野郎の魂胆が……! あの野郎、キコリを最初からその方向で育ててやがったな!? 破壊魔法ブレイク……そこに可能性を見出してやがったんだ! 破壊神をも破壊する可能性……! 正真正銘キコリだけが撃てる必殺魔法……!)


 どの段階からシャルシャーンが仕込んでいたのかは分からない。けれど、もしかするとキコリが参考にしたという「武器破壊魔法ソードブレイカー」とやらも、もしかしたら何処かにシャルシャーンの仕込みが入っていたかもしれない。いずれ生まれ出るキコリに、ブレイクという可能性に気付かせるために。

 世界中で、唯一それが出来るのがシャルシャーンというドラゴンなのだから。

 しかし、今此処でその考えに到るべきではなかった。その隙をヴォルカニオンが見逃すはずはないのだから。

 だからこそ、ヴォルカニオンの炎がアイアースを焼いて。しかし、そこでヴォルカニオンは止まる。


「戦いに集中していないな。所詮殺されぬと分かればやる気が出ないか?」

「そういう話じゃねえよ。シャルシャーンの野郎の執念に気付いて呆れてただけだ」

「シャルシャーンシャルシャーンと。此処に出ても来ぬ者のことばかりか。あの根性曲がりは永遠に治らん。今更の話だ」

「……まあ、そうなんだがよ」


 たぶんシャルシャーンが此処に出てこないのはヴォルカニオンが襲ってくるからなんだろうな……などと思いながらも、アイアースはヴォルカニオンの目元付近まで高度を下げる。


「なあ、此処までにしようぜ。俺様はまだ妖精好きと引きこもりのところに行かなきゃならねえんだ」

「引きこもり……?」


 ヴォルカニオンはその言葉に訝しげな表情になって。やがて「おお!」と声をあげる。


「そうか、『楽園』か! また忘れていたな!」

「おう、そうだ。ただでさえ時間がなさそうなんだ。分かるだろ?」

「……ふむ。まあ、よかろう。1度焼いたしな。あとはまたの機会としよう」

「またの機会なんかねえよ……で、手ぇ貸してくれんだな?」

「ああ。我に二言はない。キコリのためにそのゼルベクトとやらに火を吹くとしよう」


 なら、それでいい。ヴォルカニオンがそう言ったからには、必ずそうする。

 その律義さだけは、アイアースは信じているのだから。

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