俺様だってドラゴンなんだから
ボウ、と。ヴォルカニオンの吐いた炎が一瞬前までアイアースの居た場所を焼く。
空気すら焦がすようなこの炎の恐ろしいところは、これがドラゴンブレスではないということだ。
そう、これはただ単に炎を吐いただけ。人間がドラゴンブレスを勘違いするかのような、そして実際に人間など防具ごと溶かし切るような熱量を持つこの炎の吐息は、ただそれだけの代物なのだ。
「ヴォルカニオン! テメエ頭おかしいのか⁉ 破壊神相手の協力体制だって言ってんだろが! 俺様にケガさせてどうする!」
「そんなものは理解している。シャルシャーンが何かしらの愚かな真似をして、それゆえに貴様がらしくもなく体を張っているということもな」
「そこまで分かってなんだこれは!」
次々に吐かれる炎の吐息を避けるアイアースに、ヴォルカニオンは笑う。
「ハハハ、何を決まりきったことを。そんなもの、貴様が気に入らんからに決まっているだろう。我はそういうドラゴンだ。貴様とてそれを分かって此処に来たのだろうに」
「あー、もう! だから会いたくなかったんだよ!」
爆炎のヴォルカニオン。それはもっとも有名なドラゴンだ。
そして同時に、歴史や童話に何度も語られながら、けれど人間は誰もその名を知らない。
そう、ヴォルカニオンは「僅かな生き残り」のみがその姿を語り継いだドラゴンだ。
だからこそヴォルカニオンは人類がドラゴンと聞いて最初に想像するパブリックイメージだ。
最もドラゴンらしい真紅のドラゴン。
火を吐き空を飛び、残虐で残酷で尊大で無慈悲。
同時に賢者であり、深き智慧を有する尊き者でもある。
されど、一部を除きあらゆる生き物に平等に敵対的である。
それゆえに、気に入った者は生かすが気に入らない者には相手がたとえ何であろうとその炎で焼き殺す。
あまりにも破壊的なエゴを竜神に許されし、赤きドラゴン。
そのドラゴンは……シャルシャーンが大嫌いだ。理由はシャルシャーンも知らない。
しかしまあ、ヴォルカニオンが気に入っている相手などキコリくらいしか居ないだろう。
そのキコリの件を含めて半殺しと言っているのだから大分譲歩しているとはいえるが、アイアースとしては半殺しなどにされるわけにはいかない。
「このアホがよお……! こんなことしてる場合じゃねえって分かんねのかよ!?」
「分かるとも。だからこそキコリに免じて我のエゴを多少引っ込めたのだろうが。これがどれほど苦痛か分かるだろう?」
炎の吐息を回避しながらアイアースは苦悩の表情を浮かべ、三叉の槍を作り出す。
「あー……分かるに決まってんだろボケ! 俺様だってドラゴンなんだからよお!」
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