会いたくねえ
そう、実のところ。あと1体だけドラゴンは存在する。
『楽園』のデスペリア。シャルシャーンとは違う意味でこの世界の何処にもいない、忘却されしドラゴンである。
(つーかまあ、アイツ自身がそういう風に仕向けてんだが)
その能力は……まあ、今はいいだろう。とにかく、ドラゴンの記憶からも消えるような、そんな能力を持っているということだ。そして同時にそれは、破壊神ゼルベクトが出てきた場合の切り札になり得るものでもある。あるが、今大切なのはそこではない。
「はー……会いたくねえー……」
アイアースは「とある場所」に繋がる転移門の前でそう溜息をついていた。
この先に行けば「爆炎のヴォルカニオン」の領域だが……まあ、平たく言うと会いたくないのだ。
他のドラゴンとも仲は悪いが、ヴォルカニオンとは一番良くない。
これはもう相性というほかないのだが、しかしだからといって会わないわけにもいかない。
だからこそ意を決して転移門へと飛び込んで。
「は?」
ゴウ、と。火炎がアイアースの居た場所を襲ってくる。
「う、うおおおおおおお!?」
全力で飛行して回避すると、そこにはヴォルカニオンの姿があった。どうやら待ち構えていて火を吐いたようだが、とんでもない挨拶もあったものだ。
「おいヴォルニオン! てめえ、何しやがる!」
「焼き尽くそうとしただけだが? ああ、火力が弱かったという意味か?」
「ふっざけんなよクソが! いきなり人を焼こうとする奴があるか!」
「此処に居るだろう? なんだ貴様、寝ぼけているのか?」
「ぐあああああああああ! ムカつくうううう!」
「騒いでないで要件を言え。殺されに来たなら歓迎しよう」
こいつ殺してえ……とアイアースは素直に思う。キコリはなんでこんな奴をあんなに高評価しているのか全然分からない。しかしまあ、こんな奴でも戦闘力に特化したドラゴンだ。
「キコリの件だ」
「ああ、そういえば一緒にいるのだったな。聞こう」
「てめえ……」
どうしてくれようかと思いながらも、アイアースは深呼吸する。落ち着こう、ケンカをしに来たわけではない。キコリのためだ。
「キコリを守ろうって話だ。破壊神ゼルベクトとかいうクソ野郎が世界を破壊に来るらしくてな。シャルシャーンはそいつにキコリをぶつけようとしてる」
「ふむ……」
「だがキコリは限界だ。これ以上はどうなるか分からねえ……だから後は俺様たちがどうにかする必要がある」
「それで我を誘いに来たか。よりもよって貴様が」
「ああ。勿論俺様が気に入らねえのは分かる。だが……」
「いや、話は充分に分かった。貴様の説明が端折り過ぎて意味不明だが、キコリのためだというのは分かるからな。正直、貴様が人のために動くというのは驚きだ」
殺してぇ……と思いながらアイアースは「そうかよ」とだけ答える。
「それなら」
「だが、それはそれとして貴様が気に入らん」
「……は?」
「殺しはせん。殺しはせんが……まあ、半分くらい殺しても支障は無かろう」
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