簡単に決められるものでもないだろ

「……どういう意味なんだ?」

「会えば分かる。貴様にも奴は会いに来るはずだ。その時こそ、奴の『不在』たる真の意味を知るだろう」

「なんだか怖いな」

「そうかもしれん。しかし、そうではないかもしれん。そこは貴様次第となるだろうよ」


 ヴォルカニオンは笑い、「さて」と仕切り直す。


「まさか貴様が未だに立ち位置を決め切れていないとは思わなかったが、それ故にドラゴンを探して回るとは、中々に面白い」

「簡単に決められるものでもないだろ」

「そうか? もう決まっていて、貴様自身が気付いていないだけかもしれん」

「言葉遊びだよ、それは」

「どうかな。いずれ分かることだ」


 笑いながら、ヴォルカニオンはキコリを見下ろす。


「だが、そういうことであれば『創土のドンドリウス』に会うのがいいかもしれんな」

「ドンドリウス……」


 その名前は知っている。ソイルレギオンが、その名前を言っていたからだ。

 しかし、何故ドンドリウスなのか? そんなキコリの疑問に答えるかのように、ヴォルカニオンは口を開く。


「奴は人間に強い興味を持っている。そういう意味ではキコリ、貴様と話が合う……いや、奴のほうから話を合わせようとしてくるはずだ。貴様の立ち位置を考えるうえで、参考になるだろう」

「人間好きのドラゴン、か」

「人間好きとはまた違うだろうがな」


 皮肉げに笑うヴォルカニオンだが、あまり違わないのではないか……とキコリは考えてしまう。

 しまうが、オルフェが背中で「あー……」と呟いているので、何かに気付いたのだろう。あとで聞けばいいか、などと考えてもいた。


「その妖精とも仲睦まじいようだ。さしずめ、貴様の頭脳といったところか」

「まるで俺が頭悪いみたいに」

「クハハハハハッ、良くはなかろうよ!」

「ええ……?」


 不満そうに声をあげるキコリにヴォルカニオンは更に大きな笑い声をあげ、キコリは多少気分を害しながらも立ち上がる。


「とにかく色々参考になったよ。ありがとう」

「なに、構わん。良い暇潰しになった」

「暇なのか?」

「暇だな。ああ、それとキコリ。1つ忠告を」

「ん?」

「先程の話を聞いた限り、貴様はユグトレイルを『話の通じる人格者』とでも思っていそうだが……違うからな? 奴は妖精に肩入れするあまり世界樹の形をとったような奴だ。基本的に妖精以外の全てを同等に見下している」

「……んん?」


 それはキコリの中にあるユグトレイルのイメージと違い過ぎて、キコリはおかしな声をあげてしまう。


「貴様からは妖精の力を強く感じる。だからまあ……同好の士とでも見做されたのだろうよ。そして奴が他と話が通じぬは、主にそれが原因だ! クハハハハハッ!」


 なるほど、キコリはユグトレイルに同じ趣味の仲間と見做されたということらしい。

 そういう意味ではまたキコリはオルフェたち妖精に助けられたということになるが……。


「ああ、ユグトレイルのエゴは……それか」

「そういうことだ!」


 楽しそうに笑うヴォルカニオンに見送られて、キコリは前回向かった場所とは違う転移門へと歩いていく。知らなくても良いことを知ってしまった気もするが……まあ、不思議とユグトレイルに親近感を抱いた辺り、あまり間違ってもいない、のかもしれなかった。

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