奴は基本的に『不在』なのだ
だから、というわけではないだろうが……キコリは旅の始まりとして、ヴォルカニオンに会いに来ていた。
オルフェもユグトレイルの加護のおかげか、前回に比べれば大分気分がマシになっているようだが……ヴォルカニオンが恐ろしいのは変わらないらしく、キコリの背に隠れてしまっている。
しかしキコリからしてみれば、ヴォルカニオンは非常に理知的だ。今もキコリの話を黙って聞いてくれてた。
「なるほどな、確かに我から逃げ切った人間には覚えがある」
「問答無用で襲ったのか?」
「当然であろう? 焼かない理由が何処にある」
「いやまあ、いいけどな」
「フッ……」
笑うヴォルカニオンにキコリが「なんだよ」と問えば、ヴォルカニオンは「何、つまらん発見だ」と返す。
「貴様の精神は大分こっち寄りになってきているな。最初に会った時はもう少し人間に肩入れしていた。まあ、あの時は貴様も人間であったが」
「……かもな」
言われてみてキコリは「そうかもしれない」と気付く。別にヴォルカニオンが人間を焼き殺したからといって怒りを覚えるようなことはない。
まあ、仕方ないよな……程度のものだ。それは「人間」としては、あまり正しいものではないだろう。
「とはいえ、ドラゴンに挨拶回りしようっていうんだ。そっちの方が便利かもな」
「あるいはな。で、その人間は『不在のシャルシャーン』を探しているんだったか」
「正確には過去形だな。今は異界言語をあたることにしたみたいだし」
「異界言語、か」
「ん?」
「貴様の言っていたゴブリンもそうだが、このところ異界の影響が強いように感じる。人間の言う『迷宮化』もそうだが、何かが起こっているような気がしてならん」
そういえば確かに空間の歪みも英雄と呼ばれた類の人間がやったのだったか、とキコリは思い出す。
あのゴブリン、そしてアサト。キコリの失った記憶も含めれば、そんなものが同じ場所に集まるというのは少々出来過ぎな気もする。とはいえ……だ。
「竜神も大神も、俺には何も言わなかった。問題があれば竜神が神託みたいなのを下すとは聞いたけど」
「大神にも会ったのか。我等ドラゴンでも会った者はそう多くないはずだが」
「例えば?」
「シャルシャーンだな」
「事あるごとにその名前を聞くな……」
もう何度その名前を聞いただろうか。会ったこともないのに、周囲からの情報ばかりが集まっていく現実にキコリが溜息をつけば、ヴォルカニオンは笑う。
「まあ、そう言うな。奴は特殊だからな……文字通り、奴は基本的に『不在』なのだ。何処にでもいて何処にもいない……それは空間移動などという意味では、決してない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます