こんな場所を整備する理由

 そうして訪れた場所。そこは、一言で言うと山岳地帯であった。

 どういう理屈か何度通っても理解できないのだが、キコリたちが今立っているのは高い山の上であるようだった。

 いや、正確には中腹といったところだろうか?

 この場所にはそれなりの広さが確保されているようだが、少し端に行けば切り立った崖が存在していて、見下ろせば遥か崖下の光景は霧のようなものがかかっていて見えすらしない。


「……凄いな」

「まあまあ高い場所にあるみたいね。一体何処なのかしら」

「山の上なのは確かだけどな」

「こういうのは山脈っていうのよ」


 オルフェの言う通り、幾つかの山が連なっているようであり、確かに山脈であるのだろう。

 しかし、それよりもキコリには気になることがあった。


「此処、誰かが整備してるな」

「整備って……誰が?」

「人間じゃないのは確かだろうけどな」


 言いながらキコリは、平らな地面を撫でる。小さな砂利のような石程度は転がっているが地面に大きな凹凸や段差はなく、転びそうなものもない。天然の山でこうはならないだろう。

 そして人間ではない理由は……何もなさすぎるからだ。


「人間が此処を整備したんなら、落下防止の柵を作る。でも、そんな跡すらないしな」


 勿論、そんな余裕がなかっただけかもしれない。

 しかしそうなると、こんな危ない場所を整備する理由がない。


「ていうか人間にしろそうでないにしろ、こんな場所を整備する理由って何よ」

「さあ。迷宮化する前はどっか別の場所に繋がってたんだろうし……それ関連かな」

「あー……」


 キコリの言葉にオルフェも納得したように頷き「あっ」と声をあげる。


「とするとオークかしらね。連中、そういうことする知能あるし」

「かもな」


 キコリも迷宮化直後にゲリラ戦を仕掛けたことがあるので知っている。

 オークは知能が高く、独自の文化を持つ種族だ。

 ゴブリンが使っている武器の中にも、オーク製と思われるものが混ざっていることがあるのだ。


「山を整備する……となると、此処は鉱山なのかもな」

「鉱山、ねえ」


 何の興味もなさそうにオルフェが肩をすくめる。

 まあ、キコリとしても武器防具は自分で調達できるので鉱山にテンションを上げる意味はない。

 だから、粛々と進んで次のエリアに行けばいいだけの話……なのだが。


「見られてるな」

「そうね」


 キコリたちを見ている、幾つかの視線。道の先に落ちている岩が組み上がり、人間サイズの岩人形たちが現れる。

 ロックドール。山岳地帯に現れるというモンスターを前に、キコリは斧を構え笑う。


「すぐにぶっ壊してやる。覚悟しろ」

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