馬鹿はお前だ

「ガ……?」


 ビッグゴブリンが困惑した様子を見せつつも、キコリに鉈剣を振るう。

 いままで逃げ回っていた獲物が突然向かってくれば、そんな反応にもなるだろう。

 だが、それでいい。

 キコリやクーンを吹っ飛ばす、丸太のような腕。

 ホブゴブリンよりも更に大きい、見上げるような巨体。

 だからこそ、伸びきったその腕をキコリは駆けあがる。


「ガアアア!?」


 当然、思いきり腕は振られ、キコリは投げ飛ばされるように上へと舞い上がる。

 それでいい。

 それしか近づく方法がない。

 投げ飛ばされて上空に舞い上がるキコリを見て、ビッグゴブリンは笑っている。

 馬鹿が、とでも言っているのだろうか。


「馬鹿はお前だ」


 通じないと分かっていても、キコリは呟く。

 これで賭けの為の最後の準備は整った。

 あともう一手。もう一手ほしかったが……。

 落下しながら、キコリは思わず笑いそうになる。

 ビッグゴブリンから注意が完全に離れた隙を狙い背後に回っているクーンのその姿。

 鉄杖をスイングしながら、狙っているのは。


「ブゲアアアッ!?」


 ビッグゴブリンの股間が打ち抜かれる。

 足が閉じられクーンが鉄杖を持っていかれるが……そうだ、流石にそこまで「鉄より硬い」とはいかないだろう。

 キコリがそこを狙わなかった理由はただ1つ。狙った後に挟まれた鉄杖のように、自分の脚が砕かれそうだというのが1つ。

 そして、もう1つ。

 狙いは、そこではないからだ。

 落下しながら、キコリはビッグゴブリンの首に絡みつく。

 そのままビッグゴブリンの頭に片手で触れ……キコリは叫ぶ。


「ブレイクッ!」


 表面的には、何も起こらない。

 ビッグゴブリンが大きくガクガクと震え……膝をつき、そのまま倒れる。

 キコリも投げ出され地面に転がり……クーンが走って近づいてくる。


「やったね、キコリ!」

「ああ……ところでお前、いつから気付いてたんだ?」

「んー、気絶はしてなかったんだよ。動けなかったけど」


 ごめんねー、と笑うクーンにキコリは「いいよ」と答える。

 まあ、まともに背中を打ったのだ。動ける方がおかしいというのは分かる。


「でもキコリ」

「ん?」

「ブレイクって、あの魔法だよね? なんで頭に?」

「なんでって……」


 見た目には、ビッグゴブリンに何の損傷もない。

 他の部位に攻撃してどうなったかを考えると、少しばかりゾッとしてしまう。

 だが、だからこそ狙って正解だったと言えるのだが……。

 その考えを自分の中で纏めながら、キコリはクーンに答える。


「頭の中に損傷受けて無事な生き物なんて、居るはずないだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る