それやったら俺
それでも、斧は振るえる。
だからこそキコリは斧を振るおうとして。
しかし、瞬間的に横へと転がる。
一瞬前まで自分がいた場所に鉈剣が突き刺さり、それを好機とキコリは立ち上がり地面を蹴る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫び、斧を振るって、伸びきった腕へと斧を振り下ろす。
「……嘘だろ」
だが全力で振るった斧は、僅かな傷もビッグゴブリンに与えてはいない。
ガン、と。振るわれた腕がキコリを弾き飛ばす。
木にぶつかって、その木がメキメキと折れて倒れていく。
「げほっ……」
鎧越しでも伝わるダメージ。今まで何度も弾き飛ばされてきたが、その比ではない。
視線を向ければ、クーンはすでに気絶しているように見える。
担いで逃げるのは無理だ。
生き残りたいなら、クーンを置いて逃げるしかない。
けれど。一瞬浮かびかけたその考えを、キコリは笑う。
フラフラと立ち上がり、笑みを形作る。
「ははっ。見捨てられないよなあ。それやったら俺……クズだもんな」
生き残りたい。
でも……此処でクーンを見捨ててクズになったら。
もう2度と、アリアに顔向けできない気がしたのだ。
それは、とても嫌だった。
だから……キコリはビッグゴブリンを睨みつける。
「なあ、おい。お前が異常の原因なのか?」
ビッグゴブリンは答えない。
いつでも殺せる玩具がまだ生きている。
その程度のことだとでも言うかのように笑っている。
そして、それはその通りだろう。キコリの斧はビッグゴブリンに傷1つつけられなかった。
なら……キコリの勝ち筋は1つしかない。
破壊魔法ブレイク。ホブゴブリン相手で、足1本を吹っ飛ばす程度の威力。
ならば、このビッグゴブリンにはそれ以下の効果しか発揮しないだろう。
それでも、この魔法が少しでも効果があるのなら。
(考えろ。コイツが俺をナメてる間にぶち込めて、最大の威力を発揮できる箇所……)
鉈剣を持つ腕? いや、残った片手で鉈剣を持てるし、そもそもキコリを殴り殺せる。
「ガアアアアアアアアア!」
振るわれる鉈剣を、無様に転がりながら避ける。
もう斧は手放している。効かない重い武器など邪魔でしかない。
足はどうだろう。いい考えのような気がする。足は動きの起点だ。
だが、違う気もする。
ならば、何処か。チャンスはたった一撃。どの程度効くかも分からない魔法を、何処に放つ?
ガオン、と。振るわれた鉈剣は胸部鎧に浅く当たり……しかし、たったそれだけで胸部鎧を深く削る。
鎧が意味を成していない。同じ鉄製のはずなのに、粘土か何かのようだ。
「……!」
心臓の鼓動が早くなる。
命の危機が、死がそこまで迫っている。
避け続けるキコリを前に、ビッグゴブリンが本気になろうとしている。
「ああ、そうか」
それしかない。
そこしかない。
だが……出来るかどうか。
いや、やるしかない。
それしか残されていない。
失敗すれば、死ぬだけだ。
追い詰められた状況は何故か、逆にキコリの心を開放して。
笑みすら浮かべながら、キコリは走り出していた。
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