感謝しろとは言わねえよ

 それからどれほどの時間が経ったのか。

 冷たい、と。そう感じたキコリが目を覚ますと、その目の上には水で濡れた布が乗せられていた。


「お、目ぇ覚ましやがったか。どうだ? 気分は」

「……アイアース」


 キコリが起き上がるとアイアースは「ああ?」とすごんでみせる。


「俺様は『気分は?』って聞いたんだ。気分が俺様たあ、どういうアレだ。最高って意味か?」

「あー……いや、気分は……まあまあだ。気を失う前よりはずっと良い」

「おう。まあ感謝しろとは言わねえよ。持ちつ持たれつだ」


 フン、と鼻を鳴らすアイアースに「そうだな」と頷きながらキコリは周囲を見る。

 何処かの家の中……に見えるが、それにしては随分と荒れ果てている。

 掃除でもされたのかホコリなどは積もっていないが、それでも長い間人が住んでいない雰囲気を感じさせる廃墟だった。


「見ての通り、すんげえ廃墟だ。町ごとな。井戸が枯れてなかったのが救いだな。そこまでダメだったらお手上げだった」

「アイアースが元気そうなのはそれが理由か?」

「多少はな。水の中の魔力を取り込んだってわけだ。人間もやってる魔力回復法だが……こんなもんに頼らざるを得ない辺り、詰んでやがる」


 そう、人間が食事をするとき栄養だのなんだのというモノの他に僅かながら魔力も取り込んでいる。

 一部の修練法に食事によるもの、特別な食材によるものなどが含まれているのはこれを感覚的に理解しているからだとされているが……つまるところ、ドラゴンであっても食事で魔力を回復、あるいは成長させられる。勿論何処まで伸びるかは本人の才覚によるのだが、それはさておいて。


「ほら、飲め。ちょっと寝たくらいで回復した気になってんじゃねえぞ」


 アイアースの差し出したコップの水をキコリも飲み、そうすると確かに体内の魔力が多少回復したのを感じる。そう、多少ではあるが回復したのだ。


「なんだ、この水? ただの水じゃないのか?」

「魔力濃度で言えばそれなりのもんだな。此処の井戸が特別なのか、此処の世界ではこれが普通なのかは知らねえが」


 言いながら、アイアースは何も嵌っていない窓の外を見る。ギラつく太陽は健在で、暑さが消えたわけではない。しかし建物の中にいるというだけで多少マシにはなっている。


「動けるようになったなら、さっさと探索に行くぞ。この世界の情報を少しでも集めねえと、帰るチャンスすら掴めねえ」

「帰るチャンス……っていうと、やっぱりこの世界の神か?」

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