それを基準にするんじゃねえ

「……まあ、そうなる」


 どことなくキレの悪い返事にキコリは僅かに違和感を覚えるが、まあ「神に会おう」と言ってそう会えるものでもないのだから普通だろうと流す。大事なのは、その神と会う方法そのものについてだ。


「どうやれば神に会えるか、か。俺たちの世界じゃ神殿で祈ったら会えたけどな」

「は?」

「とはいえ、大神エルヴァンテ様は気まぐれとは言ってたからな……でも、この世界でも神が俺たちを注視してるなら会える、か?」

「いや待て。普通そんなんで会えねえんだよ。それを基準にするんじゃねえ」


 神殿で祈ったくらいで会えたなら、毎日神殿は大行列だし神々は暇ではない。つまりキコリのパターンは相当なレアケースになるのだが……そこでアイアースはふと気付く。


「いや、やってみる価値はあるか。こっちの神が俺様たちに気付いていれば接触のチャンスは逃さない……かもしれねえ」

「ああ。この町にも神殿はあるかもしれない。探してみよう」


 頷きあうと、キコリとアイアースは廃屋を出る。そこでキコリは周囲を見回すが、どうにも町全体が廃墟じみている。

 ボロボロの家々と、放置されつくした道。此処には恐らく、何もない。


「何もないな。さっきの怪物が原因か?」

「かもしれねえな。だが、問題はそこじゃねえ」

「そこじゃないって……じゃあ何が問題なんだ?」

「さて、な。今時点では何とも言えねえが……」


 アイアースが視線を向けた方向につられてキコリも視線を向ける。この廃墟群の向こうに何か見つけたのかとキコリは目を凝らすが、そこから響いたのは爆音と、崩れる廃墟だった。


「爆発……魔法か!? 行こう、アイアース!」

「ま、それしかねえな」


 キコリとアイアースが走っていった先。そこにあった光景は、複数の黒い怪物と武装した何人かの人間が争っている姿だった。


「ウーノ、魔法はあと何発撃てる!」

「4発! もっとデカいのなら1発だ!」

「俺が時間を稼ぐ! その間に……ぐあっ!」

「バルア!?」


 黒い怪物の魔法が炸裂し、剣士の男が吹っ飛ぶ。魔法士の男が慌てて杖を構え直そうとしたところで、アイアースが「まあ、待て」とその肩を叩く。


「え! だ、誰!?」

「そう死に急ぐんじゃねえ。あとキコリ、その剣拾え。石よりゃマシだろ」

「すまない、ちょっと借りる」


 キコリが剣を拾い上げると剣士の男は呻くが、どうにか出来るわけでもない。

 ついでにアイアースも「それ貸せ」と魔法士の男から杖を奪い取り、槍を扱うようにヒュンヒュンと回し始める。


「怪物は5体。ま、どうにかしてみようじゃねえか」

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