魔法みてえなもんだ

 あの怪物は今、地上にいる。ならば、必要なのはミョルニルではない。

 勿論、フェアリーマントでもない。今必要なのは……あの怪物たちを、空へと逃がさないこと。

 その方法はもう知っている……簡単だ。ドラゴンロアを使えばいい。問題は、魔力と殺意。

 魔力は問題ない。ドラゴンロアに最低限必要な魔力は、そう多くはない。

 問題があるのは、殺意。

 キコリはあの怪物たちに対し、然程の殺意はない。

 ないが……今此処で、殺さない理由はない。いや、此処で殺さなければならない。

 何故なら。何故なら? そう、こいつ等を此処で殺さなければ、殺される人たちがいる。

 だから、キコリは。その内に、殺意の火を燃やす。


「ああ。今からお前らを殺す」


 その宣言と共に、キコリの中に殺意が溢れ出す。こいつを……こいつ等を殺すと。

 殺意が、魔力と混じり始める。恨みも、何もない純粋な殺意。それをキコリは、思いきり放つ。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ドラゴンロア。あらゆる生命を畏怖させるドラゴンの咆哮。

 奇しくもそれは、他の生命体を殺す時に一々余計な感情を抱かない他のドラゴンのそれによく似ていた。

 それは黒い怪物の中を蹂躙し……真正面にいた1体が、文字通りにはじけ飛ぶ。


「……は?」

「ハハッ! なるほどそうか、そうだな!」


 ギョッとするキコリとは違い、アイアースは今のからくりを理解していた。

 だが、アイアースとは少しそれは合わない。アイアースはドラゴンロアをあまり使わないからだ。

 だから、杖に魔力を通し黒い怪物を切り裂く。簡単だ……キコリのドラゴンロアで僅かとはいえ動けなくなっているのだ。外すはずもない。


「こいつ等魔力生命体だからな! ドラゴンロアだって魔法みてえなもんだ、よぉく効くってこった!」

「ああ、そういうことか……合点がいった」


 言いながらキコリも駆け寄り黒い怪物を剣で切り裂く。正直、剣など扱ったことは無いが……叩き切るくらいならば剣術の心得などなくても出来る。

 そして武器に魔力を通す方法も、すでにキコリは慣れたものだ。


「す、凄い……あれは、かなり強い魔法剣だぞ」

「さっきの咆哮みたいな魔法も……あんな強者がまだ居たのか?」


 先程の2人がキコリとアイアースを見てそんなことを言っているが、キコリはその言葉に僅かな違和感を感じていた。

 正直、今キコリが使っているのはそんな大した威力ではない。

 やり方こそドラゴンのものであるが、魔力は才能のない人間でも使える程度のものなのだから。

 一体どういうことか……それを確認するべきかと考えながら、キコリとアイアースは早々に黒い怪物たちを倒し切った。

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