どん詰まりって感じだ

 ひとまず、異世界ではあるがどうやら言葉が通じる。

 その事実に不可思議さと安心を感じながら、キコリは現地人の2人に近づいていく。


「まずは、無事でよかった。これ、返すよ」

「あ、ああ。その……凄いな」

「どうも。とはいえ、俺たちはこの辺りのこと何も知らないんだ」


 視線をチラリとアイアースに向けると、魔法士のほうに杖を「ほらよ」と投げていた。

 まあ、非常にアイアースらしいので放っておきながら「一応アレは連れなんだ」と紹介する。


「俺はキコリ。あっちはアイアース。苦戦してそうなので介入しましたが、問題あったりするか?」

「いや、ない。レルヴァは人類共通の敵だ。助けてくれてありがとう」

「そうか、ならよかった」


 レルヴァ。その言葉をキコリは頭の中で反芻する。モンスターでも怪物でも化け物でもなく「レルヴァ」と称したということは、あの個体の名前なのは間違いない。そして人類はレルヴァと敵対している……そして恐らくは、人類は劣勢だ。


(うーん……問題が多そうだな。この世界の勢力関係は分からないけど……少なくともレルヴァとは話になりそうにない。なら、人類に味方するのがいいのは間違いない、けどな)


 ただ、キコリはこの世界で暮らしたいわけではない。元の世界に帰りたいのだ。その手段、つまり神に繋がる道が人類の下にあるのかどうか?

 それは分からないが、折角のこの縁を逃すわけにはいかない。だからキコリは、可能な限り友好的な笑顔を浮かべてみる。


「俺たちは人のいるところを目指してるんだが、良ければ道を教えてくれないか?」

「いや、すまない。それは出来ない」

「……ん?」

「君たちだって分かるだろう。何処もいっぱいいっぱいで、人心は荒み切っている。言い方は悪いが、余所者が足を踏み入れれば警戒するどころの話じゃない」

「そんなに酷いのか?」

「何処も同じだ。自分たちが生き残るだけで必死だ……すまないな。俺たちも君たちを連れていくことでスパイだと吊るされるのは嫌なんだ」

「いや、それは仕方ないさ」

「ああ、本当にすまない……おい、行くぞ」


 そうして男たちは去っていくが、その姿が消えるとキコリとアイアースは顔を見合わせる。


「……この世界、滅びかけてるんじゃないか?」

「ああ、俺様もそう思うぜ。どん詰まりって感じだ」


 先程の「あんな強者が」とかいう言葉は、もしかするとレルヴァに対抗できるような人間は死に尽くした、といったような話なのかもしれない。


「人のいる町には行けない、か。嫌な話になってきたな……」

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