そんな保証など何処にもない
「いや……それは無理そうだ」
「あ? なんだお前も疲れたのかよ」
「そうじゃない。分からないか?」
キコリに言われてアイアースは訝しげに周囲を確認し……やがて軽い舌打ちをする。
「そういうことか。俺様が気付かないとはな」
空に、更に2体。何処から現れたものか、キコリも地面に映る影を見るまでは気付かなかったのだ。
先程のものと同じにも見えるし、細部が違うようにも見える。
唯一分かるのは、アレも敵ということだ……!
「2体……か」
流石に1体だけではなく2体となると、同じ手は使えない。しかもミョルニルも使えるのはあと2~3回だけだ。今のキコリにはドラゴンとしての力もチャージの為の道具もなく、それ以上に使おうとすれば間違いなく倒れる。
だが今の状況でミョルニル1発ずつで倒せるのか? 分からないが……やるしかないのは確かだ。
……と、そこまで考えて。その考えを、キコリは全て捨て去る。
「逃げよう」
「あ?」
「俺1人じゃない。此処で無茶は出来ない」
そう、今はアイアースが戦えない。ならばキコリが此処で倒れるわけにはいかないのだ。
「ガアアアアアアアアアアア!」
「ガアアアアアガガガガガガ!」
振り下ろされる魔法を前に、キコリは身体の中に魔力を通していく。
使うのはミョルニルではない。グングニルでもない。ドラゴンロアでも、ましてやウォークライでもない。
それは、妖精からの贈り物。その身体を格段に軽くする妖精の能力の1つ、フェアリーマント。
すなわち、飛べないキコリが高く跳ぶためのもの。それを発動させ、アイアースを抱えて。
キコリは走り出す。身体が軽くなろうと力が変わるわけではない。だがキコリの身体はすでに人ではなくドラゴンだ。それ故に、魔力が無かろうと才能が無かろうとキコリの身体能力は人を僅かに超えている。
だから、キコリは凄まじい速度でその場を遠ざかり走る。
「ギ!?」
「ギギギ、ギイイイ!?」
飛んでくる魔法に当たらないままに、キコリは走る。
今は無茶をして「倒す」べき場面ではない。無茶をして「生きる」場面だ。
フェアリーマントも魔力を使用する以上、今のキコリが発動できる時間はそれほど長くはない。
長くはないが……それで充分だ。凄まじい速度で逃げるキコリを追う怪物たちの姿は、見る見るうちに引き離されて見えなくなっていく。
そうして逃げて、逃げて、逃げて。突然キコリはふらりと倒れ……ようとして、踏みとどまる。
「ダメ、だ。ここではまだ、倒れ、られ、ない」
「いや、もういい」
アイアースはキコリの背から降りると、キコリを背負う……のは無理だったので、そのまま引きずる。もう立っているのもキコリには出来ない……そんな状態だった。
「似合わねえが、俺様も根性ってもん見せてやる。しばらく寝てろ。次に目が覚めたときには安全地帯だ。たぶんな」
そんな保証など何処にもない。ないが……その言葉を信じて、キコリは意識を手放した。
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