俺様だって手札が同じなら
「なんだ、アイツ……!?」
「空なんざ飛びやがって気に食わねえ……」
アイアースも起き上がりながら、そう愚痴る。倒れていたいのは山々だが、今の状況でそうしているわけにもいかない。
「早速さっきの石が役に立ちそうだな……!」
「あ? どうするってんだよ」
「こうする」
キコリは石を振り被ると、何度も唱えたその魔法を唱える。
「ミョルニル!」
石に電撃が宿り、黒い怪物に向けて投擲される。当然のように怪物は石を回避して、再度の魔法を放つべく手に魔力を溜めようとする。
だがその直後「戻ってきた」石が命中し怪物に電撃を流し込む。
「ガガガガガガガガガガ!?」
表面を焦がして落下してきた怪物は、キコリの手の中に戻っていく石と、それを握り襲い掛かってくるキコリを見て慌てて再び飛ぼうとするが、その身体にキコリが飛び掛かり石でぶん殴る。
「ガッ! ガガガガガ!」
「ガアアアアアアアア!」
怪物もただ殴られてばかりではない。キコリに反撃しようとするも、その全てが上手くいかない。
普段空を飛んで魔法を撃ちおろすような怪物が近距離から石でぶん殴ってくるようなバーサーカー相手に戦い慣れているはずもない。
正直、声だけを聞いていればどちらが怪物か分かったものではない。
だが今のキコリがこの怪物相手に勝とうとするなら……余力を残して次に同一の相手に会った時にも勝てるようにするには、これが一番現実的であった。
キコリだって自分が人間だった時に安全に使える魔法の限界くらいは覚えている。
せいぜいが、ミョルニルで3~4発。それ以上は倒れるし、オルフェもいない状況でそうなるのは死と同じだ。
だから、節約する。斧もないこの状況なら、石だって使うのに躊躇いはない。
そうしてキコリが見事怪物を殴り殺すと、怪物は黒い霧のようになって溶けるように消えていく。
「なんだこれ……ゴーストの仲間か? それにしては今の俺でも殴れたけど」
「まあ、なんらかの魔力生命体なのは確かだろうな。実体化する程度には濃いってわけだ」
アイアースはそう言いながら、キコリの戦いについて考えていた。
正直に言ってアイアースは「ドラゴンになってからのキコリ」しか知らない。
そのキコリは無茶こそするものの結構常識的な戦い方をするほうだったが……。
(コイツ、本来はこうなのかもしれねえな……まあ、悪くはねえ。俺様だって手札が同じなら、同じことをする)
含み笑いをしながら、アイアースはフラフラと歩きキコリの背におぶさる。
「よし、終わったな。俺様を背負っていけ」
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