俺様はそうしてきたぞ

「別にいいんじゃねえか、壊してもよ」

「え?」

「俺様はそうしてきたぞ」


 そう、アイアースは気に入らないものには全部ケンカを売ってきた。

 理屈がどうこうなどというものは、所詮は勝者が決めるものでしかない。

 そうした奴がそうしなかった奴より勝ったから「正しい」とされたに過ぎない。

 だから勝てば、自分の理屈が正しくなる。負けたらそれは屁理屈になる。

 それがアイアースの理屈だった。当然暴論だ。集団生活というものに全く向いていない愚連隊の論理だ。しかしアイアースはそれを間違っているとも不幸とも思ったことは無い。何故なら、それは。


「俺様たちはな、ドラゴンなんだ。なるべくしてそうなった……その道に立ち塞がるっていうならまあ、壊すのは仕方ねえ。他の何を譲っても、エゴだけは譲れねえんだからな」

「そういうもんか」

「そういうもんだ。どうしてもモヤモヤすんなら今度その村、ぶっ壊してこい。で、言ってやりゃいいんだ。『どうだ間違ってたのはお前らだ』ってな」

「……それはちょっとな」

「情が残ってんのか?」

「いや、どうでもいいんだ。壊して何か俺が幸せになれるとも思えない」


 もう過去の話だ。非常にどうでもいい、ただの思い出話。今は、それより守るべきものがある。


「俺が壊すべきなのは、魔王トールだ。アイツを倒して、フレインの街と……オルフェを取り戻す」

「あー、そのオルフェだけどな」

「ん?」

「正気を失ったこと言い出す前に俺様が永久氷に閉じ込めといた。間に合ったかどうかは微妙だが……俺様以外にゃ解けねえから、そこは安心しとけ」

「永久氷……? え、凍らせたってことか?」

「もっと上等なもんだ。まあ、心配は要らねえ。動かせもしねえからな」


 アイアースが言うなら安心なのだろう。キコリはオルフェのことをひとまず意識から外す。

 ここから帰らなくてはどうしようもないからだ。しかし、どうやって帰ったものか?


 考え始めたその時、空から放たれたキコリの頭ほどの大きさの魔法弾に吹っ飛ばされる。

 当然背負っていたアイアースも吹っ飛ばされ、2人は地面に転がっていく。


「ぐ、う……魔法?」


 ドラゴンとしての無尽蔵の魔力による防御がない以上、キコリの今の魔力は人間の頃とほぼ変わりはない。つまり……魔法に対し物凄く弱い。

 その魔法攻撃の主……空に浮いているモノは、今までキコリが見たこともない、おそらくはモンスター。

 黒い身体と翼を持ち、細長い手足を持つ……形こそは人間に似ていながらも、明らかに違うと本能が叫ぶような、そんな「何か」だった。

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