騙されている

 次から次へと現れるポイズンゴーストを斬って進めば、洞窟らしきものが見えてくる。


「洞窟……?」

「如何にもって感じね」


 地の底へと繋がっていそうな洞窟の入り口は、如何にもネクロマンサーが潜んでいそうな、そんな怪しさで。此処を進めば目的地につくと、そんな予感がして。


(……本当に、そうか? いや、そもそも……)


 しかしそこで、キコリはふとそんな疑問を抱く。

 どうにも先程から消えない違和感。それが何かまでは分からないのだが「何かがおかしい」という感覚だけが付きまとっていた。


「……オルフェ。何か、変だ」

「え? そうかしら」

「何を懸念している?」


 オルフェとドドはそれに気付いていないようで、むしろこの場ではキコリが変であるかのような雰囲気だ。キコリ自身、そんな2人を見ていると「気のせいかもしれない」と考えてしまいそうになり……すぐに、その考えを振り払う。

 何かがおかしい。身体の奥底から、そんな違和感が警告じみた焦燥感を掻き立てている。

 そうして……キコリは、洞窟の前で、ついに立ち止まる。

 分からない。分からないが、何かがおかしい。何がおかしいのかは分からない。

 でも、何か「騙されている」という強い違和感がある。

 それが何かは、やはり分からない。だが、もしも。もしも今何かに騙されていて、それがキコリたちを蝕んでいるのであれば。

 そんなものにどう対抗すればいいかは分からない。分からないが……。


「どうしたの、キコリ。何がそんなに不安なのよ」

「心配ならドドが先に行こう」


 そうキコリに声をかけてくる2人に、キコリは答えず深く息を吸い込む。

 分からない。やはり分からない。だが……「騙されている」という確信ばかりが強くなる。

 それは静かで深い怒りへと繋がっていく。

 キコリはバーサーカーだ。策など弄することは出来ず、ただ真正面から壊す事しか出来ない。

 しかし、壊す事しか出来ないならば。これがもし、何かの罠だというならば。

 それを真正面から叩き壊してやると。キコリは意図的に自分の中へ魔力を大きくチャージしていく。

 魔力を乗せるのは、声。叫び。咆哮。

 かつてウォークライと呼ばれたソレに魔力を意図的に色濃く乗せて、混ぜて。

 溜め込んだ魔力の大きさに、キコリの身体から溢れ出た魔力が僅かにスパークする。

 そして。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 魔力ある咆哮、ドラゴンロアが響き渡る。

 全方向、声の届く範囲に影響する竜の咆哮は周囲へと響き渡り……ガラス細工が砕けるようにして、周囲の景色が消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る