ポイズンゴースト

 そう、それは何の前触れもなく、キコリたちの周囲から噴き出した。

 ジュウ、と音を立てて土の中から噴き出すそれは一瞬「毒か」と警戒するキコリたちの前で、集まり形をとる。

 瞬間、敵と判断したキコリの斧が「それ」が形を完全に成す前に斬り裂く。


「ギガアアアアアア!?」


 ジュバッと蒸発するようにして消えた「それ」はあと2体。ドドの振り回したメイスは空しく通り抜け、しかし次の瞬間にはキコリの斧が断ち切る。残りの1体もようやく人型のような姿をとった時にはキコリの斧が斬り裂いている。

 そうして3体の「それ」が消え、他に出てこないのを確認するとキコリは息を深く吸い整える。


「……なんだったんだ、今のは?」

「え、分かんないで斬ったの?」

「分かってから斬っても遅いかもしれないだろ」


 相変わらずのバーサーカー思考にオルフェは諦めたような表情になりかけるが「まあ、正解よ」と続ける。


「アレは……たぶんだけどポイズンゴーストね」

「ゴースト……アンデッドなのか?」

「そうよ。なんか特殊な奴らしいけど、前に仲間がそんな話してた記憶があるわ」

「それより、ドドは疑問がある」


 そんなドドの真剣な声にキコリたちが視線を向けると、ドドはキコリの斧をじっと見ていた。


「ドドのメイスは通じなかった。だが、キコリの斧は通じた。何故だ?」

「あー……魔力がこもった武器だからな」


 もっと正確に言えばキコリのドラゴンとしての「爪」なのだが、そこまではまだ説明するつもりがなかった。


「なるほど、魔力か。ドドのメイスは普通のだからな」


 ゴーストやデーモンと呼ばれる類のモンスターには魔法の武器でなければ通じない。

 それはある程度の経験を積んだ冒険者であれば常識であるのだが、オークであるドドが知るはずもない。そもそもオークの武器がそんなものを想定して作っているかも分からない。


「此処に出るのがあんなのばかりなら、ドドはあまり役に立てないな」

「いや、それはいいさ。出来ることをやっていけばいい。それが仲間だろ?」

「まあ、そうね。アンタは如何にも力自慢だし、そっち方面でしょ」


 キコリとオルフェがそうフォローすれば、ドドは「そうか」と頷く。


「ドドは確かに力自慢だ。そういう役に立とう」


 全身鎧に盾にメイス。冒険者の分類で言えばドドは重戦士……仲間を守るタイプだ。

 言ってみれば攻撃しか頭にないキコリと、物理的な力は無いに等しいオルフェに出来ないことがドドには出来るはずだ。

 そしてポイズンゴーストとやらも一撃で薙ぎ払えることはもう分かった。

 ならば、ドドには今は体力を温存して貰った方がいい。

 わざわざ言わずとも、それがキコリとオルフェの統一した見解だったのだ。

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