賢きゴブリンは巣穴を出ず
その予測……まあ、予測というほどのものでもないが、やはり夜が明けても目の前に広がる光景は変わらなかった。
いやむしろ、太陽の下で紫色の草はより毒々しく見える。
「如何にも毒がありそうって感じだけど、2人は何か知らないか?」
「知らないわね。でも毒がありそうってのは同意するわ」
「ドドもだ。あまり触れたくはないな」
キコリはブーツだし、オルフェは飛んでいる。ドドは金属製のグリーブだ。
少なくとも踏んだところで汁が染みてくることはないように思える。
だからといってこんな場所、歩かなくていいなら歩きたくはない。
「……少なくとも状況を見るに、此処を通って行ったはずなんだ」
けれど、とキコリは思う。
アンデッドオークたちとネクロマンサーが此処を通ったのであれば、この毒々しい草を踏み荒らした跡があるはずだ。だが、此処に生えている草にはそれがない。
それだけを見れば、此処を通っていないのではないかと、そんな不安すらよぎる。
(いや、あれだけの偽装をしてたんだ。通っていないはずは……ない。そのはずだ)
キコリは自分を納得させるように斧を握ると「行こう」と声をあげる。
まずは自分から一歩を踏み出し、紫の草を踏む。
一歩、二歩、三歩。歩いて、歩いて、振り返って。
キコリは、驚いたような表情のオルフェとドドに気付く。
その視線の先を追えば……そこには、今キコリが踏んだばかりの草が踏まれたことなどないかのように元気に生えていた。
「……え?」
キコリは思わず自分の足元を見るが、草を無残に踏んでいる。その足をあげると……瞬間、草が時間を巻き戻しでもしたかのように元に戻っていく。
うわっ、と叫んだキコリはまた草を踏むが、恐らく他も同じであろうことが簡単に予測できた。
つまり、この紫色の草は。
「踏んだくらいじゃ元に戻る……ってことか?」
「さあて、ね。どの程度までやれば元に戻らなくなるのか、試してみる気はないわね」
試してみるのは簡単だ。キコリかオルフェがグングニルの一発でも撃ち込んでやればいい。
だが、こんな気味悪い草にそんなものを試してみる気にはならない。
「賢きゴブリンは巣穴を出ず、という。そういうものだな」
「ごめん、その例えは分からない」
「あたしも」
「……むう。余計なことをしなければ何もない、という意味だ」
言われてキコリもオルフェも「あー」と納得したように頷きあうが、まあそういうことだろう。
此処で多少の好奇心を解決するために余計なことをするよりも、先に進んだ方がいい。
それは間違いのない事実だった。だから、キコリたちは紫の草原を進んで。
ジュウ、と音を立てて足元からおかしな色の霧が噴き出てきたのは、草原をそれなりに進んでからのことだった。
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