貴様は人間か?

「なっ!」

「こ、これは!?」


 オルフェとドドが驚いたように周囲を見回す。

 目の前の洞窟は消え去り、そこには深い堀があった。

 落ちれば足の1本くらいは折ったかもしれないが……問題はそこではない。

 堀の先にあったのは、腐りかけた木の壁。

 離れた場所には橋と門もあるが、どちらも壊れかけている。


「ドドは知っている。これはオークの集落だ……!」

「いや、それよりこれ……どういうことなのよ!? え、幻術魔法!? あたしが気付かなかったっていうの!?」

「キコリ。どうやって気付いた」

「違和感。つまり勘だな。なんか騙されてる気がした」


 何処から幻術にかかっていたのかは分からない。しかし、寸前で気付けたのは幸いだっただろう。

 これも、もしかするとドラゴンになって得た感覚なのかもしれないが……。


「それより、この村だ。魔法で隠してたってことは、きっと何かがある」


 恐らくはネクロマンサーに関わる何か。

 そう考えキコリは橋へ向かって歩こうとして。


「キコリ!」


 オルフェの叫びと同時。キコリを上空から降ってきた無数の氷の矢が貫く。

 ザグザグザグッと。凄まじい音が響き、キコリは自分の足を地面から生えた土の腕が拘束していることに気付く。


「ぐ、あ……っ!」


 それでも斧を手放さないキコリを、ほぼ時間差なく降ってきた火球が焼く。


「ヒール!」


 オルフェの回復魔法が放たれるが、焼け石に水だ。ダメージが大きすぎる。

 というか、生きているかどうかすら分からない。ヒールが通っているからギリギリ生きてはいるのだろうが……。

 

「見えないところから卑怯者め! 姿を現せ!」


 吼えるドドに応えるように、ローブを着込んだ人影が上空に姿を現す。

 髑髏の奥に光る眼があるが……明らかに、人間ではない。

 恐らくはネクロマンサー。まさかネクロマンサー自身もアンデッドとは誰も思わなかったが……。


「一番厄介そうな者はもう戦えまい。残るはオークと妖精……容易いことだ」

「どうかな」


 まだボロボロながらも立ち上がったキコリに、ネクロマンサーが目の光を瞬かせる。


「驚いた。多少回復した程度で立てるダメージではなかったはずだが」

「諦めの悪さには多少自信があってな。それに」


 キコリの背後でヒールをかけ続けているオルフェを感じながら、キコリは手の中に新しい斧を生み出す。


「頼れる相棒がいる。だからこのくらいなら、俺は立たなきゃいけないんだよ」

「無謀だな」

「無謀上等。俺からそれを抜いたら何も残ってない」


 睨みつけるキコリに、ネクロマンサーは無言。しかし、僅かな沈黙の後にネクロマンサーはおかしな問いを投げかけてくる。


「1つ聞こう。貴様は人間か?」

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