世界樹で、ドラゴンだ

 ユグトレイルは世界樹だ。とんでもなく巨大な……フレインの町など簡単に飲み込みそうなその巨体は、黙ってその場に生えていれば神々しいのだろう。

 しかしまあ、あれだけズシンズシンと動けば恐怖の対象でしかない。

 だからだろうか、バードマンの衛兵たちが周囲を飛んでいて、アイアースを見つけて「あっ」と気付いたように声をあげてくる。


「お、おつかれさまですアイアース様」

「おう。コレのことはひとまず気にしなくていい。町長に新しいドラゴンが来たって伝えときな」

「え? では、この巨大な木は……?」

「世界樹で、ドラゴンだ」

「なんという……」

「とにかくどっか行け。アレが動いただけでお前らどうにかなるぞ」

「は、はい! 撤退! 撤退だ!」


 衛兵たちが声をかけ合いながらユグトレイルの周囲から離れていくのを見届けると、アイアースはユグトレイルへと向き直る。


「お前もさあ……来るんなら変身して来いよ」

「私はこの姿に誇りを持っていますので。変身などする理由がありませんね」

「住民の迷惑ってもん考えろよ」

「むしろ世界樹があることは誇りでは?」

「動かねえならな」


 方向性が違うだけでヴォルカニオンと同じだな、とは流石にアイアースは言わないが……まあ、言ったところで聞くはずもないので仕方がない。


「それで? ドンドリウスの気配もありますしヴォルカニオンもいますが……状況は何か変わりましたか?」

「知らねえよ。そもそもキコリもまだ起きてねえしな」

「ふむ……確かにキコリらしき気配もありますが」


 何かを探っているのか、ユグトレイルはしばらく無言。そのあと少しの時間が経過した辺りで「ああ、なるほど」と声をあげる。


「適応している最中ですね。破壊神がどうとか言うから最悪も考えましたが、一応ドラゴンの範疇にあるようです。ですが……まあ、シャルシャーンの目論見通りというところでしょうか」

「破壊竜、ってか?」

「ええ。それは避けることは不可能でしょう。あとは性格がどちら寄りになるかですが……」


 その言葉と同時にアイアースの手に、光る1枚の葉が落ちてくる。それは言わずと知れた世界樹の葉だが、アイアースはそれを胡散臭いものを見るような目でつまむ。


「……なんだこりゃ」

「世界樹の葉です。特別に私の魔力を強く込めてあります……これを煎じて飲ませることで、目覚めさせることができるはずです」

「適応の最中なんだろ? そんな干渉の仕方していいのか?」

「シャルシャーンがこの件に関わっているならば私がこうすることも織り込み済みでしょう」

「確かにな」


 だとすると飲ませたくなくなってくるのだが、そういうわけにもいかないだろう。

 それがアイアースとしては、少しばかり気に入らないのは……まあ、仕方のない感情だろう。

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