本気でロクなもんじゃねえなあ

 家に戻り2階の部屋のドアを開けると、オルフェが振り返り視線を向けてくる。


「お帰り。そっちは野暮用っての、上手くいったの?」

「おう、ただいま。まあ、ぼちぼちだ」


 他人にお帰りと言われるのもむず痒くはあったが、アイアースとしてもすっかり慣れた。キコリにせよオルフェにせよ、アイアースを全く色眼鏡で見ない。単純にアイアースという個人として見ているのが、なんとも心地よい。

 それを考えると……やはりキコリにユグトレイルの葉を使わない、という選択肢はないのだろう。


「……何か見覚えのある魔力を感じるんだけど、それって」

「おう、ユグトレイルのだ」


 言いながらアイアースがユグトレイルの葉を取り出せば、オルフェが「世界樹の葉……」と呟く。


「そういや貰ったことあったんだっけか」

「そうね。あのときのより効果は強そうだけど……飲ませていいものなの?」

「ユグトレイルはそう考えてる。たぶんシャルシャーンもこれを予想してるだろうってな」

「……そう……」

 

 オルフェは少し考える様子を見せると、アイアースの眼前まで飛んできて「ありがとう」と頭を下げる。そんなオルフェに、アイアースは面食らった様子を見せる。


「なんだよ。調子狂うぜ」

「あたしはキコリに何も出来てない。これが手に入ったのはアンタのおかげよ」

「おう、そうか。じゃあこれ煎じるってのを頼むわ」

「ええ」


 葉を受け取り階下へ行くオルフェを見送り、アイアースは軽く息を吐く。何も出来てないとは言っていたが、そうではないだろう。オルフェが毎日キコリの状態をどうにか出来ないか試行錯誤していたのを知っているが……なんとも慣れた動きだった。恐らくはキコリの身体のことに関して、何度も関わってきたのだろうと思わせるものだ。


(……キコリもめんどくせえ性格してるが、オルフェも相当だな。ま、妖精ってのは大概そうだとは聞くけどよ。2人セットで普通に見えるってとこか)


 アイアースからしてみればキコリたちの中で唯一マトモなのはドドくらいのものだろう。アレは非常に真面目で才能もあるが、その才能含めてマトモの範囲内に収まっている。まあ、「マトモの範囲内での才ある者」といった感じだろうか。

 だからこそ自分がついていけていないという事実を自分自身が痛感している。

 今は鍛冶という方向性の才能も強く目覚めさせているが、それが今のキコリの役に立つわけでもなく……これから始まる戦いでも「ないより心情的にマシかもしれない」程度の範囲に留まるだろう。

 魔王の件がまだドドの中で後を引いているのもあるだろうが……それだって元をたどればゼルベクトのせいだ。


「本気でロクなもんじゃねえなあ、ゼルベクトってのはよ。あ、お前は関係ねえぞ?」


 眠るキコリにフォローするように、アイアースはそんなことを言っていた。

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