自分を『何』だと認識してる?

 そうしてしばらくの時間がたつと、オルフェが階下から煎じて冷ましたユグトレイルの葉を器に入れて運んでくる。

 安定感を重視するためか大きくなっているが、そんな姿にもすっかり慣れたものだ。


「冷ましたんだな」

「当然でしょ、意識のない奴に飲ますんだから」

「そりゃそうだ」


 アホなことを聞いたな、などと思いながらアイアースはオルフェがキコリの頭の近くに膝をついたのを見ていた。

 何かの魔法で器の中の煎じ薬を小さな水の玉にすると、オルフェはそれをキコリの口の中へと放り込んでいく。中々手際がいいが……見ているとアイアースはふと思う。


(アレって、ああいう用途にしか使えそうにねえけど……わざわざ、あんな魔法作ったのか?)


 妖精という種族が魔法の才能を高いレベルで持っていることはアイアースも知っていたが、必要だからとチョイと魔法を作れるなんていうのは妖精にしかできないことだろう。

 まあ、オルフェは「妖精女王」なのだから、普通の妖精と比べてもその辺は楽なのかもしれないが……アイアースでも、そんな魔法の開発に頭を使うのは無理だ。

 とにかく、キコリの口の中に煎じ薬は入っていき……やがて、キコリの中の魔力が忙しく流動を始める。


「なんだ!?」

「キコリの中の適応が急速に進んでるのよ。どういう風に転がるのかは分からないけど、今の状態を『異常』と見做して治し始めたんだと思う」


 そう、世界樹の葉は身体の不調などを簡単に治せる効果がある。キコリの身体の状態を「そう」判断したのであれば、当然それをどうにかする方向に作用し始める。

 キコリの場合はそれは「適応」であり……「うっ」という声がキコリの口から洩れる。


「こ、こは……」

「キコリ!」

「やっと目ぇ覚ましやがっ……」


 オルフェに続いて駆け寄ったアイアースは一瞬ゾクリとするものを感じてオルフェの肩を掴んで引き寄せる。


「ちょ、何よ!?」

「あ、いや……」


 なんだろう。今一瞬、何かとてつもなく危険な何かをキコリに感じた気がしたのだ。しかし、目の前でキョトンとしているキコリからはそれを感じない。

 感じない、が……アイアースはそれを気のせいなどとは思わない。今のは、確かにキコリから感じていた。


「おい、キコリ」

「アイアース……? 俺はあの後、どうして……」

「そんなことよりまず1つ質問に答えろ」


 そう、だから「それ」をアイアースは確認しなければならない。今感じた不安が今後も憂慮すべきものなのかどうか、その辺りを決めなければならないからだ。


「お前……今、自分を『何』だと認識してる?」

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