ドラゴン界の暴れん坊
「なんだぁその顔は」
「なによ、その顔は」
またしても2人の台詞が被って、キコリとドドは思わず吹き出しかけて口元を抑える……が、それが悪かった。オルフェとアイアースはキコリの眼前にやってきて、無言で頬を引っ張り始める。
「いででで……」
「真面目な話してんのよ、キコリ。分かる?」
「お前に付き合ってんだぞ、こっちはよぉ」
左右から攻められてキコリは「すまん」と両手をあげて降参のポーズをとってようやく許してもらう。
「えーと、とにかくどうこの町のトップと会うかだよな」
「会うと言っても会えないものか」
「難しいだろうな。執事がいるなら、それを通さず直接会うような用事を捻り出さないといけなくなる」
そう、そこが問題なのだ。この町の人間ですら、町長とは執事を通して話しているし、それで不便をどうやら感じていない。となると、町長に会いたいと言い出すのは相当異端であるといえる。
「そもそも余所者と会ってくれるほど不用心でもないだろうな」
「めんどくせえな。ドラゴンでございって踏み込めばいいだろ。一発デカくなってやろうか?」
「やめてくれ、とんでもないことになる」
平和な町に狂暴なドラゴン襲来、なんてことになっては目も当てられない。どうにか平和を乱さず、町長が会おうと思うような何かをする必要がある。となると……普通ではない目立ち方をする必要は、やはりあるだろう。
「……アイアースの名前、使ってもいいか?」
「あ? デカくなるってことか?」
「そうじゃなくて。ドラゴン界の暴れん坊のアイアースの名前を出した上で、何か困ったことを解決するって言えば会ってくれるかなと思ってさ」
ドラゴンは強いというのがパブリックイメージだが、各ドラゴンの名前がどれだけ知られているか……というと、キコリは正直そこまではないのではないかと思っている。
たとえばヴォルカニオンは「会えば焼き尽くされる」系のドラゴンだ。その名を知る者がそういるとは思えない。
しかしアイアースは妖精ですら名前を知る暴れん坊だ。恐らくかなり知名度が高い。同時に悪名が高い可能性もあるが……そんな存在が「力になる」という話になれば、相当に興味を揺さぶる案件だと思えるのだ。
「まあ、言ってることは分かる」
「だろ?」
「分かるが……なんだろうな。面と向かって暴れん坊だなんだと言われると、すげえムカつくな」
「ごめんな」
「おう」
気が利かなかったな、と謝るキコリに頷くと、アイアースはさっさと立ち上がる。
「よーし! そんじゃ寝るか! 明日は早速領主の家とやらに行くぞ!」
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