傲慢な考え
「断る」
「突然で驚かれたでしょうが実は……は?」
「断る。帰ってくれ」
即座に断られて、イオと名乗ったアサシンは覆面でも分かるほどにポカンとした表情になる。
「え……と。身を隠していたことを不快に思われて? そうでしたら」
「そういう話じゃない。その話自体を受ける気がないんだ」
「な、何故ですか!? 我等が王は貴方であれば元帥の地位を用意されると」
「そんな御大層なものは要らないからだよ」
立身出世は男の夢だというが、キコリはそんなものは必要ないのだ。そんなものの為に斧を握ったわけではないし、欲しかったものはもう持っている。軍だか何だか知らないが、本気でそんなものの立場など欲しくはない。
今まで見てきた無数の権力者を見ても、ああいうのはキコリには徹底的に向いてはいない。
「俺は、斧を振るだけしか能がないんだ。そういうのは、能力があって権力を欲しがる奴に持っていってくれ」
「ま、待ってください。もしや我等について何か誤解が」
「フレインの街との関係を勘定に入れなくても、俺はその魔王軍とかいうのに所属する気はないんだよ。ハッキリ言って、俺は偉くなりたいとか自分の強さを示したいとか……そういう欲求は微塵もない。欲しいものは今、全部持ってる」
だから帰ってくれ、と。キコリはそう宣言する。それをイオは静かに聞いていたが……やがて、諦めたように息を吐く。
「……私にはこれ以上、どうしようもありません。今のご返答は持ち帰ります」
「そっか。ちなみに魔王軍とか言ってたけど……それを作って、その先はどうするんだ?」
「私には主の偉大なる考えを語る頭も権限もございません」
「分かった、ありがとう」
「では、これにて」
その言葉を最後にイオは再び消え失せる。恐らく、何かそういう魔法なのだろうが……。
「俺には真似できそうにもない魔法だな」
つくづく自分には魔法の才能はないのだと、そんな現実をキコリは再度思い知る。まあ、あったところで使いこなせたとも思えないのが悲しくはある。しかしそれも今更な話だ。
(……ドラゴンと分かって『配下』に引き入れようとする、か)
それは少々……いや、かなり傲慢な考えだとキコリは思う。ハッキリ言ってドラゴンほど立ち向かうのが馬鹿馬鹿しい生物はいない。
無限の魔力に冗談のような適応力、無敵にも思える攻撃力と防御力、ドラゴンブレスを始めとするお手軽に放てる必殺技の数々。その実情を知ればドラゴンスレイヤーとかいう称号が夢物語より酷いものであることがよく分かる。
だというのに、そのドラゴンを「配下」にしようとしてきた。これはハッキリ言って、あのトルケイシャよりも思考がぶっ飛んでいる。
「俺が弱そうに見えたから、って理由ならいいんだけど……な」
どのみち、ガッツリ関わってしまった。あの様子だとまた何か来そうな気がする。
それを考えると、キコリは大きく溜息をついてしまうのだった。
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