それだけの重大事だ
お貴族様。そう理解し、キコリは慌てて片膝をつく。
「し、失礼しました。セイムズ防衛伯様、とお呼びすればよろしかったでしょうか?」
「ふむ。まだ子供だろうに弁えている」
満足そうに笑うと、セイムズ防衛伯は「その妖精のことだが」と続ける。
「キコリ、君と個人的に組んでいるということであれば、当然君に責任が生じる。それは分かるね?」
「はい」
「とはいえ、妖精の存在によって起こり得る問題というのも、私なりに想像はできる」
立ちたまえ、というセイムズ防衛伯の声に従いキコリが立ち上がると、セイムズ防衛伯はペンダントのようなものを取り外す。
「これを持っておきたまえ。ある程度の問題は解決できるだろう」
「これは……」
「我が家門の紋章だ。それを見てなお問題が起きるようであれば、我が家を軽んじることになる……とまあ、そういうことだな」
キコリにペンダントを握らせてくるセイムズ防衛伯に周囲の護衛が声をあげかけるが、セイムズ防衛伯は腕を振って黙らせる。
「妖精と人間が組む。君にはまだ分からないかもしれないが、それは相当重大な意味を持つ。私はこの件を王都に知らせ、君の今後を見守る必要がある」
「……はい」
「近いうちに冒険者ギルドを通して君たちに招待状も送ろう。ああ、それと……」
そこで思い出したようにセイムズ防衛伯はオルフェに視線を合わせ一礼する。
「ご挨拶が遅れ申し訳ない。私はこの防衛都市ニールゲンを統括するハイデルン・セイムズだ」
「オルフェよ。言っとくけど、妖精に余計な期待するなら火傷するのはアンタよ?」
「……心に留めよう。貴方が何を思いキコリ君と組んだかは、聞かせて頂けるのかな?」
「気に入ったからよ」
「なるほど。大変参考になる話だった。貴方にもキコリ君と共に招待状を送らせていただいても?」
「好きにすればあ?」
「承知した」
温和に笑うと、セイムズ防衛伯は再度キコリに視線を向ける。
「その装備も、相当のモノに見える。まあ、あまり詳しくは聞かないが」
「えっと、はい」
「では、私たちはこれで失礼しよう。行くぞ」
「え、良いのですか⁉」
「これ以上何がある。ああ、衛兵。そういうことだ。そこのオルフェさんも通して差し上げるように」
敬礼する衛兵たちに頷き、セイムズ防衛伯たちは去っていく。
それを見送り……キコリは大きく息を吐く。
「はー……緊張した。つまりこの街で一番偉い人ってことじゃないか」
「まあ、それだけの重大事だからな」
衛兵はそう言うと、キコリが握ったままの「セイムズ防衛伯のペンダント」を指さす。
「それ、失くすんじゃないぞ。今すぐ首にかけとけ。君がセイムズ防衛伯の庇護下に入った証のようなものだからな」
「……やっぱりそういうアレなんですね」
「何度でも言うが、それだけの重大事だ。トラブルの際は、迷わずそれを出すんだ。いいな」
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