オッサンじゃなくて防衛伯

 ひとまず、冒険者ギルドに報告しなければならない。

 そう考えキコリは町中を歩くが……そうすると、想像したよりもずっと人の視線が突き刺さってくる。

 それはオルフェが「ほー」とか「へー」と言いながらキコリの兜の上で声をあげていたのもあるのだろう。


「石造りの家が基本、か。崩れたら中の人間死にそうね」

「そもそも家が崩れたら人は死ぬんじゃないか……?」

「そうかもね」


 何やらザワついている人々の間を抜け、冒険者ギルドへ。

 近くにいた冒険者がギョッとしたような表情になるが、ひとまず無視して中に入ると……更にざわめきが大きくなる。


「よ、妖精!?」

「なんでこんな所に!」


 絶対何か問題が起こる。

 そう察したキコリは先程受け取ったペンダントを取り出し掲げる。


「この妖精は防衛伯の許可の下滞在しています! ご理解願います!」


 掲げたペンダントの紋章に大多数の人間がギョッとして、一部の人間が疑問符を浮かべる。

 防衛伯の紋章が分からないのだろう。

 しかしまあ、防衛伯の名前を出した上で文句をつけてくる人間は、中々いないようだった。


「……あのオッサンの印、役に立つのね」

「オッサンじゃなくて防衛伯な」

「あたしには関係ないし」


 キコリはそのまま妨害もなくイレーヌの下へ歩いていき、「戻りました」と挨拶をする。


「はい、お帰りなさいキコリさん。何やら色々とあったようですね」

「ええ。彼女はオルフェです。妖精で……ええっと、ワイバーンと戦った縁で一緒に居ます」

「ワイバーン!?」


 どうやらワイバーン自体も相当に問題だったようでイレーヌはギョッとした表情になる。


「……よくご無事で。それに、その装備……」

「ミミックの死骸がありまして、それから手に入れました」

「天然のマジックアイテム……幸運でしたね」

「はい」


 さらりと嘘をついてしまったが、こればかりは仕方がない。

 妖精に造ってもらったと言うよりは、余程マシだろう。

 そうしてコボルト平原のこと、妖精の森……のことは誤魔化しつつワイバーンの襲撃について話していくと、イレーヌは段々と難しそうな表情になっていく。


「なるほど、今までと全く変わっていますね。その状況では恐らく先遣隊の生存も絶望的でしょう」

「……かもしれません」

「ありがとうございます。依頼に関しては、これで終了ということで大丈夫です。この情報も元にしたうえで明日以降、ダンジョン探索の大規模な常設依頼が出されるはずです。よろしければ参加をご検討ください」

「はい」


 勿論参加するべきだろう。

 キコリは頷くと……階下への階段に視線を向ける。

 アリア。彼女にもオルフェを紹介しなければならないと、そう思ったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る