完璧な光景
だからこそ迷って、迷って。ようやく「そこ」に到達する。
大きな堀と壁、そして跳ね橋。降りて渡れるようになっている跳ね橋の両側には衛兵モドキが立って槍を持っているのが見える。当然だがそうなると、そこを無理矢理突破するというのは「無し」だろう。
「……俺がやってみる」
キコリはそう言うと衛兵モドキの1人の前に進み出る。偉い人への挨拶など人間社会では迷宮伯にしかしたことはないが、おおよそそれで間違ってはいないはずだ。
「こんにちは。俺はドラゴンのキコリです。此処の城主……王に謁見しにきました」
「ドラゴン。そう名乗る方がルール通りに訪問されたならば通すように命令を受けています」
「では、通っても?」
「はい。貴方が【不在のシャルシャーン】であるならば例外でしたが。後ろの方々は?」
「仲間です。同じドラゴンの海嘯のアイアース、妖精女王のオルフェ、それとハイオークのドド」
「問題ありません。お通りください」
言われて、キコリたちは跳ね橋を渡り始める……が、少し気になることが1つ。
「シャルシャーン、意外と嫌われ者なのか?」
「意外っつーか妥当だろ。アイツのことだ。いきなり城の中に現れたりするんじゃねえか?」
「ああ、それは……ルール違反だな」
「人の都合とか考慮しねえからな、アイツ」
たぶん「まあまあ、いいじゃないか」とか言ったんだろうな……などとキコリは思う。その光景が目に見えるようだ。
「まあ、シャルシャーンのことはいいか……」
必要があれば勝手に出てくるだろうし、今出て来られても話が面倒にしかならない。
少なくともシャルシャーンがドンドリウスに嫌われているのは確実なのだから。
そうして跳ね橋を渡り、門を潜ると……見えてくるのは美しい、しかし強烈な違和感を感じる庭園だ。その違和感の理由には、誰もがすぐに気付いた。
「この花も偽物、か」
「だな。よく出来ちゃいるが、その辺の建物となんら変わらねえな」
まるで陶器かなにかで出来た花は美しく色づいてはいるが、永遠にその姿を変えることはない。
恐らくは「完璧な光景」に変化があることを嫌ったのだろうと。そう思わせるものだった。
そしてそれは創土のドンドリウスというドラゴンの持つ歪みとエゴの正体をも匂わせる。
芸術家。絵にて一瞬を永遠に写し取るように、此処も永遠を作ろうとしたかのようだ。
(となると……協力して貰えるか怪しくなってきたな)
キコリは見えてくる城の扉を見ながら、そんなことを考える。
芸術をやっている者に実用品を作れと頼む。それにドンドリウスがどう反応するか……言葉選びをしなければいけないだろうことを考えて、キコリは早くも憂鬱になっていた。
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