それは忘れなさい

 そこにあったものは、燃えカスだった。

 あったはずの森は燃え尽きて。

 炭のような木の残骸が立ち並んでいる。


「……オルフェ」

「大丈夫よ。あたしは冷静だから」


 元の住み家をこんなにされて、オルフェだって心境穏やかではないはずだ。

 あの日だって、あんなに取り乱していたのだ。

 昨日のことを合わせれば、オルフェの怒りは冷めてなどいないのは明らかだ。


「ワイバーンは居ない……のか?」

「そうみたいね」


 まあ、考えてみればワイバーンにだって生活というものがある。

 オルフェを見ていればモンスターも食事をするのは明らかだし、この燃えカスのような森に食料があるとも思えない。

 だが……それならワイバーンは何処へ行ったのだろう?


「行くわよ、キコリ」

「追うんだな」

「当然でしょ。此処まで来て『やめた』は無しよ」

「言わないさ」


 どのみち、此処からワイバーンが消えた話は遠からず知れ渡るだろう。

 そうなれば、コボルト平原を狩り尽くしたように誰もが「先」に向かうようになるだろう。

 それが分かっているからこそ、キコリもオルフェに反対などしない。

 約束もある。妖精には……出会いは悪かったが恩もある。

 あのワイバーンたちは……フレイムワイバーンは、キコリの敵でもあるのだ。

 だからこそ、2人は焼け落ちた門へと一歩踏み出して。


「とはいえ、闇雲に進んでもな……ワイバーンはどの方向から来たんだろうな」

「たぶん『奥』よ。仲間も襲われてたし」

「まあ、そうだよな」


 ならば、このまま真っ直ぐだ。

 キコリとオルフェは焼け落ちた森の中を進んで。

 その途中で、焼け落ちた家の残骸も発見する。

 どの妖精のものかは分からないが……なんとも無惨なものだ。

 そうして進んでいくと時折ゴブリンの姿も見える、のだが。即座にオルフェの魔法で微塵になる。


「本当に多いな、ゴブリン」

「数だけはいるもの。数だけいても無駄だけど」

「そうか?」

「そうよ。ゴブリンがたとえば100万……1億いたとして、あのドラゴンにかかれば1分かかんないわよ」


 そのくらい個体の強さは重要なのよ、というオルフェだが……キコリの場合は100万もゴブリンが居たら確実に死にそうなので、中々素直には頷けない。

 だが、言いたいことは理解できる。


「ヴォルカニオンってそんなに強いんだな」

「そりゃそうよ。あの時ゴブリン焼いてたのだって、その気なら一瞬で周囲全部消し飛ばしてたわよ」

「……まあ『爆炎』って言ってたもんな。アレは遊んでるんだろうとは思ってたが」

「恐怖と後悔させてから殺したかったんでしょ。趣味悪いわあ」

「オルフェたちは一撃で殺しにきたもんな」

「それは忘れなさい。ていうかアレだって本気ならアンタ死んでたのよ」

「そんなこと自慢されてもなあ……」


 苦笑するキコリと、その態度が不満らしいオルフェが次に通り抜けた転移門の先。

 そこは……すぐ側に大きな川の流れている、渓谷だった。

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