少しばかり経験あるぞ
どうどう、と流れる滝の音。
川の水は澄んでいて、魚が泳いでいるのが見える。
そして……キコリたちの背後の、今通って来たばかりの転移門で確かに川は途切れているのに、何の問題もないかのように川は流れている。
あれは何処に流れているのか。魚があの転移門を越えたら「何処」に行くのか。
ダンジョンというモノの持つ法則の不思議さは相変わらずだが……。
「此処が、ワイバーンの住み家なのか……?」
「たぶんね。あのトカゲどもの好きそうな場所じゃない」
確かに、自然豊かで食事になりそうなモノも豊富にあるだろう。
だが……いや、だからこそキコリには1つ分からないことがあった。
(なんでアイツ等は……妖精の森をあんな徹底的に焼いたんだ?)
此処がワイバーンの住み家であるならば、自然を無闇に焼いてはいけない程度の知能はある。
なのに、どうして妖精の森を焼きに来る必要があったのか?
食糧問題、というわけではないだろう。
妖精が木の実を好むのは、あの時色々食べられたから知っている。
対して、ワイバーンが木の実をもいで食べるとも思えない。
なら食糧問題がひっ迫して妖精の森に侵攻してきたわけではない。
単純に妖精の森を焼き払うために来たとしか思えないのだ。
だが、それは何故なのか?
分からない。分からないというのは、非常に気持ちが悪い事だ。
「キコリ。何ぼーっとしてんのよ」
「オルフェ」
「何?」
「ワイバーンは……妖精と仲が悪かったのか?」
「ほとんど関わりもないわよ。『隣』に来てたってのも、あの時初めて知ったくらいだもの」
「だよな……」
「でもどうして?」
「ワイバーンが森をあんなにした理由が分からない。餌を探すのに木が邪魔だって焼くタイプでもなさそうだ」
そう、周辺には妖精の森同様に木が生えている場所もある。
ワイバーンが木が邪魔だと焼く程度の知能しかないなら、あちこちに燃えカスがあってもおかしくないはずなのに、だ。
オルフェは、そこで言われて初めて気付いたとでもいうかのように周囲を見回して。
「あー……つまりアレね。あたしたち、ケンカ売られてたんだわ」
「やっぱ、そういう結論になるよな」
「よし。此処全部焼きましょ」
「いや、それはどうかと思う」
今にも魔法をぶっ放しそうなオルフェを押さえながら、キコリは説得の言葉を考える。
「そんなことして連中が一斉に向かって来ても勝てないだろ」
「じゃあどうするってのよ」
「そりゃまあ……」
キコリは此処から見える景色を眺めながら、ハッキリとそれを告げる。
「……ゲリラ戦だろ。俺、少しばかり経験あるぞ」
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