お前は人間だったのだな

 重ねて言えば、オークに限らず進化とはそう簡単に起こるものではない。

 人間が汚染地域と呼ぶ魔力異常を起こした場所に適応したモンスターたち特有の現象であり、そうであっても一生に1度も進化しない者だっている……いや、大多数であるといっていい。

 そんな中、2連続で進化するドドのそれはどれだけ有り得ない話か。

 だが、それでもドドの身体はそれを成し遂げた。戦いに適したオークファイターから、オークそのものの上位種……ハイオークへと。


「オオオオオオオオオオ!」


 突進する。魔法の雨嵐の中で鎧も兜もボロボロになっても、それでもドドは突進し強烈なタックルでソイルゴーレムを弾き飛ばした。


「なっ……えっ⁉」


 吹き飛ばされたゴーレムの上から落ちながら、サレナは呪文を唱えて空を舞う。

 無様に転んだソイルゴーレムもすぐに立ち上がるが、ドドはそれを無視して空を飛ぶサレナを睨みつける。


「そうか、飛べるのか」

「……! な、なんなのよ! また進化⁉ 有り得ないわよ! こんな土壇場でそんな……ただのオークからハイオーク⁉ 有り得ない有り得ない有り得ない! まさかアンタ、転生者なの!?」

「意味が分からん」

「前の人生の記憶があるのかって聞いてんのよ!」

「そんなものはない。ドドは生まれた時からドドだ。だが……どうやら、お前はそうであるようだ」


 ドドが「発進」する。ハイオークとなったドドの膂力はかつてのものとは比べ物にならない。

 土の塊であるソイルゴーレムに殴り掛かり、無数の拳を叩き込む。その度にソイルゴーレムの身体は削れ、露出したコアである魔石をドドは思い切り手を突き入れ掴み取る。

 瞬間、ソイルゴーレムの一体が崩れ落ち……襲ってきたもう1体のソイルゴーレムをドドは蹴り飛ばし弾き飛ばす。


「お前のその邪悪さは度し難い。ドドは戦士として、お前を殺そう」

「何が邪悪よ! 自分がより良く生きる為に他者を蹴落とすのは世の倫理でしょ!」

「いいや。それは人間の倫理だ。我等理性あるモンスターはそうではない。だからこそ、それを外れるモンスターを嫌い、人間を嫌う。そしてお前の倫理は、まるで人間のようだ」

「……っ」


 そう、モンスター社会は互助社会だ。

 その中でもオークは鍛冶をもってして他のモンスターへと貢献する。

 人間社会でオーク製の武器を冒険者が持ち帰るのは主にこの辺りが理由だが……ゴブリンのように恩を仇で返すものはモンスター社会でも嫌われる。

 ゴブリンが辺境……人間との最前線付近に追いやられるのはこの辺りが理由でもあったりするのだが、それはさておき。


「前の人生がどうのと言っていたな。そうか、お前は人間だったのだな」

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