そんな願い
シャルシャーンは頼りにならない。
なんだか共通認識となりつつある事実だが……フレインの町をドラゴンエッグで保護してくれていたことも事実なので、キコリとしてはそこまでシャルシャーンのことを嫌いにはなれない。
「私としては、あの災害じみた力を持つ怪物がフットワーク軽く動くことのほうが恐ろしいと思いますが」
キコリの影からルヴがそんな声をあげる。この世界に戻ってきてから、どういう理屈かレルヴァたちはキコリの影に潜んでいるらしく、唯一喋れるルヴはこうしてちょくちょく話しかけてくる。
一応ルヴたちレルヴァのことはミレイヌにも話しているのだが「任せる」と一任されてしまった。
まあ、キコリが追加で出せるレルヴァのことをモンスターの仲間とみていいかどうかは、かなり難しくセンシティブな問題だろう。
……実際にはドラゴンのキコリをトップとした眷属集団のようなものであるレルヴァという一大勢力にミレイヌが深く考えることを放棄しただけではあるだろうが。
そういう意味では、キコリを都市防衛隊特別顧問としたのはまさに妙手であったといえる。
何しろキコリが1人いるだけで無数のレルヴァも戦力に組み込めるのだ。ゴーストや悪魔同様の戦い方が出来るレルヴァは、かなり貴重な戦力だ。
さておき、ルヴはどうもシャルシャーンを嫌っているようだが……何が気に入らないのかはまあ、言葉通りなのだろう。
「始まりのドラゴンらしいからな。強くて当然だろ?」
「……この世界の護りは異常なほどに強固です」
ルヴはキコリに、そう囁く。ルヴにとっては此処はまさに「異世界」だが、そうであるがゆえに前の世界との違いを明確に感じ取っていた。
前の世界は、破壊神とレルヴァの軍団の前に簡単に滅びかけた。
しかし、この世界はそうなっていない。「不在のシャルシャーン」とかいう守護者1体と破壊神は相打ちに……いや、シャルシャーンはその力を弱めていたとしてもなお健在だ。実質、破壊神の負けと考えていい。
1つの世界の守護者が無数の世界の無数の人々の破壊の信仰を受けた破壊神を滅ぼすというのは、普通ではない。破壊神とは、それだけ強いのだ。だというのに、事実破壊神は敗北している。それは、つまり。
「主よ。世界の護りの強固さは、世界の持つ力に比例します」
「そうなのか?」
「ええ。此処は実に輝かしい世界です。そして、そういう世界を滅ぼすのは破壊神の使命のようなものです。ならば……次に来る破壊神は、もっとずっと強いものになるでしょう」
世界に不幸と破壊を振りまくために。無数の世界の無数の人々の、そんな願いを受けて。
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