独自の基準
「……そうか」
キコリはアイアースの言葉に、そう短く答える。
なんとなく、分かってはいた。色んなドラゴンに会ってはきたが、最強生物と呼ばれる彼等も完璧ではなかった。
無限の魔力があろうと、どんな攻撃も通さない鱗を持っていようと、それは必ずしも幸福を意味するものではない。
それはあまりにも簡単な理屈だ。しかし、力がなければ何も叶いはしないが故に気付く者はほとんど居ない。ドラゴンとはある意味で、それを誰よりも知っているのだろう。
だが……そういう意味ではキコリはどうだっただろうか? 他のドラゴンほどに立派な欲求だっただろうか? まあ、比べるものではないのかもしれないが……。
「誰より強ければ、なんでも出来ると思ってたよ」
「そんなもんだ。で? お前の旅は此処で終わりか?」
「それでもいいと思ってた。でも、今回の魔王の件を経て、色々と気付いたこともあるんだ」
「ほー? 言ってみろよ」
「……ゼルベクトの『転生』の仕組みに沿わない奴を1人知ってる」
そう、「アサト」と名乗ったあの黒髪の男だ。確かあの男は異世界から迷い込んだ……みたいなことを言っていたはずだ。
そしてシャルシャーンが異世界に戻るカギだと考え探しているとも聞いている。
しかし、ここでおかしなことが1つある。今までずっと気付かなかったそれに、キコリはようやく気付いたのだ。
「仮にアサトを区別するために『転移者』と名付けるとして……どういう理屈でやってきたんだ?」
「異世界からの転移、なあ……グラウザードのアホがさらってきたってんなら分かるが、そういうのでもなさそうだしな。そもそも、世界移動がどれだけ大変かはお前も知ってるだろうよ」
「ああ。難しすぎる」
キコリはアイアースにそう頷き返す。そう、世界移動は相当な魔力を使用する上に目隠して手探りで移動先を探るような、そんな不安定な代物だ。グラウザードが健在であったなら聞くことも出来たかもしれないが、もう居ないから聞くこともできない。
「そう考えると、アサトの存在はおかしいんだ。シャルシャーンがもう殺してるんじゃなければ、そんなに危ないことはしてないのかもだけどな」
「おいシャルシャーンに期待すんなよ。アレが手を出すのはいよいよダメかもって段階になってからだ」
そう、アイアースの知る限りシャルシャーンはそこまで頼りにしていい存在ではない。
シャルシャーンに任せれば安心というのであれば、魔王騒動など起こる前にカタがついているはずだし、そうでなくともキコリとアイアースが帰ってきたときには終わっていたはずだ。
アレは独自の基準で動いていて、それは人間どころかドラゴンの基準からもかなりズレていることを忘れてはいけないのだ。
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