幸福が何かなんて
キコリのそんな心情の吐露にアイアースは「実感ねえ……」と呟く。
「そりゃまあ、1個いくらで売ってるわけでもねえしな。明確に形があるもんでもねえってのに、俺様が『こいつが幸せだ』って言ったらお前信じるのかよ?」
「たぶん」
「おーおー……歪んでんなあ。つーかまあ、ドラゴンに聞くのは間違ってんぞそういうのは」
「そうなのか?」
「おう」
アイアースが近くの壁に背中を預けると、キコリも倣うように壁に寄りかかる。
視線の先で見える建築光景は活気があり、いっそその中に混ざってみたくなるほどに明るい雰囲気だ。
そんな光景を眺めながら、アイアースは「そもそもなあ」と続ける。
「ドラゴンなんてのは現状に不満があった、満たされねえ連中ばっかりなんだよ」
「そう……なのか?」
「ユグトレイル、会ったことあんだろ? それなら分かるだろ」
「ああ……」
守護のユグトレイル。妖精女王と妖精たちのことを心配していたが、あれもそうなのだろうかとキコリは思う。妖精に執着していたのか、それとも別の何かなのかは分からないが。
「アイツの場合は守ることに執着してる。過去に何があったかは知らねえがソレがアイツのエゴで、だからこそ縛ることが守ることではないと理解できて、自分の腕の外に行ってしまえば守れないというエゴの二律違反に苦しんでいる。そういう意味ならマトモなんだがな……」
キレたら一番やべえわな、とアイアースは笑う。
同様に、たとえば「裂空のグラウザード」は世界そのものへの不満を抱いていた。自分はもっと遠くへ行ける、何処までも届く。そんなエゴがあの世界移動能力を形作った。
「創土のドンドリウス」は自分の理想を形にしたがった。その結果がああいう箱庭を作り出した。
「不在のシャルシャーン」は……アイアースにもよく分からない。アレはまた別のカテゴリーだ。
「爆炎のヴォルカニオン」の場合はシンプルだ。アレは激情の化身であり、気に入らないものは全て燃え落ちてしまえと思っている。
「そうか。昔のヴォルカニオンはそんな感じだったんだな」
「現実見ろよてめえ……ヴォルカニオンがどれだけいいカッコしたか知らねえけどな、アイツは俺様より暴れん坊だからな?」
「いや、そんなことないだろ。俺にはずっと紳士的だったぞ?」
「諭すような目で見るんじゃねえよムカつくな……」
言いながら、アイアースは溜息をつく。まあ、本題はそこではないのだ。
「話を戻すとだ。ドラゴンってのは神が認める程度に哀れな、それでも欲しいもんを求めてギラついてた連中の末路なんだよ。そんなドラゴンが幸福が何かなんて聞かれて答えられるはずもねえんだ」
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