人間のことは人間に聞くに限る

 それは、なんとも憂鬱な話だとキコリは思う。

 この身が破壊神の生まれ変わりだというのであれば、その新たな破壊神とやらは兄弟のようなものだ。

 そんなものが来れば恐らく……まあ、ほぼ間違いなく殺し合いになるだろう。

 いつの話になるのかは分からないが、出来ればこの世界に来ることなく放っておいてほしいとキコリは願ってしまう。


「まあ、来ないことを祈るしかないな」

「そうですね」


 キコリに適当な相槌を打つルヴのいる辺りをアイアースは睨みながら、壁に預けていた背を離す。


「ま、ともかくそのアサトって人間が怪しいのは分かった。それで具体的にどうするんだ?」

「調べてみたいな」

「ほー? 一応聞くが手段は考えてんのか?」

「ああ、やりようはあると思う」


 キコリが思い出すのは、随分前に会った吟遊詩人のパナシアだ。

 吟遊詩人は情報屋としての側面を持っている。

 パナシアは「聞ける程度の情報しか扱っていない」とは言っていたが、その割にはアサトのことも知っている様子だった。

 つまり、吟遊詩人が取り扱う程度には「アサトの情報」は存在するということだ。

 ならば……何処かの人間の町で吟遊詩人と接触し、アサトの情報を聞けばいい。

 キコリがそう説明すれば、アイアースは「ほう」と感心したように声をあげる。


「確かにそいつぁ名案だ。人間のことは人間に聞くに限る。問題は、人間の町がどっちにあるか分かんねえってことだが」

「え? いや、それは……あっ」


 そこまで言って、キコリも思い出した。キコリが旅立ってから、ダンジョンには更なる変化もあった。

 具体的には転移門の繋がる先も大きく変化しており、防衛都市ニールゲンへのルートなど分かるはずもない。

 もっと言えば、キコリは他の人間の町へのルートも知らない。つまり……このフレインの町からどう行けば人間の町に辿り着くかなど、分かるはずもないのだ。


「……シャルシャーン。聞いてるだろ? どうにかならないか?」


 試しにキコリはシャルシャーンに呼びかけてみるが、反応は無い。出てくる気配もなければ、返事1つ返ってくることもない。


「だからさっき言っただろうがよ。期待すんなって」

「……だな」


 たぶんあと2、3回呼んでみたところで結果は同じだろう。キコリは早々に諦めると、ならばどうするかと考え始める。

 これまで大丈夫だったからこれからもアサトを放置していいかというと、話は別だ。

 アサトは勘違いでシャルシャーンを探していたが、アサトの目的を叶えられそうなグラウザードは死んだ。

 これを前提に、アサトの対応を予測しなければならないが……そのためには、やはり情報が少なすぎたのだ。

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