そんな時間
とはいえ、何もやらないという選択肢はない。
もしかすると他とは違うかもしれないという望みがあるのが1つ。
元の世界に帰る方法を探しているのを知っているからというのが1つ。
そして……このまま放置していいか見極めたいというのが1つ。
最後に、とても大事なことが1つ。
自分の平穏を脅かす輩か確かめておきたい……ということがあった。
魔王事件は、キコリに1つの恐怖をもたらした。それは、オルフェやドド……自分の手に入れた居場所をいとも簡単に奪う者たちが存在するということ。
魔王の「従属」と似たような力を、他のゼルベクト関連……歪なる転生者とでも呼ぶ者たちが持っていないなどとは誰にも言えない。
だからこそ、自分の知る不安要素をなくしておきたかったのだ。
とはいえ、それはある程度の旅をまたすることを意味する。だからキコリは家に戻ると、素直にオルフェにその胸の内を打ち明けた。結果……オルフェからは、至極真面目に悩むような「うーん」という声が返ってくる。
「なんでわざわざアンタが……と思わないこともないけど。今の話を聞かされて『やめろ』とも言えないわね……」
「ごめん」
「謝ることでもないでしょ。ま、いいわ。でもアタシもついて行くわ」
「えっ、でも」
「でもじゃないわよ。はい決定。2人はどうするの?」
オルフェが仕事から帰ってきていたドドと、暇して床に転がっていたアイアースに声をかけるが……2人から帰ってきたのは、あまり芳しい反応ではなかった。
「ドドは……やめておこうと思う。実力不足が過ぎる。迷惑をかけるわけにはいかない」
「俺様も今回はパスだな。お前らが出かけてる間、此処に何もないように見張っといてやらあ」
「そうか、分かった。アイアースも……よろしく頼む」
「おう」
ドドはやはり前回の心の傷が癒えていない。魔王の従属下にあったとはいえ、友情を盾にしてキコリを襲ったことに友人としても戦士としても、深く傷ついたようだった。立ち直るにはまだしばらくの時間がかかるだろう。アイアースが残るといったのも、そんなドドを1人残すのが心配であることをくみ取ってくれたからだろう。本当に有難い話だった。
「で? どう行くか決めたのか?」
「いや、何も決まってない。決まってないなりに、しっかりと準備して行こうと思う」
そう、何も分からないのであれば分からないなりにやるしかない。
とはいえ……あまり難しい話でもない。
「あてもなくドラゴンを探すよりは、ずっと楽な話だとは思うからな。どうにかなるだろ」
「そりゃそうだ」
アイアースが大きく声をあげて笑い出すと、つられてキコリとオルフェが笑い……やがてドドも笑い出す。それは、とても暖かく楽しい……そんな時間だった。
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