何かやったの?

 翌日。

 キコリは英雄門に向かっていた。

 今日もパーティ募集に冒険者向けの露店など、色々な人たちがいる。

 しかし、まあ……此処で買うものがあるかは不明だ。

 パーティ募集に関しても、キコリなどお呼びではないだろう。


「さて、と……」

「おー! キコリ! こっちだよ!」


 凄い大声でキコリの名を呼ぶ声。

 英雄門の前でクーンが元気に叫んでいた。


「人の名前を大声で呼ぶなよ……」

「うん? 嫌だったかい?」

「嫌って程じゃないけどさ」

「そっか。気を付けるよ」


 ごめんね、と笑うクーンにキコリは「別にいいさ」と答える。

 悪い奴ではない。それは確定しているのだが……。


「じゃあ行こう。さっさと稼ぎたいしね」

「ああ」


 クーンに言われ、キコリとクーンは並んで英雄門を潜る。

 森の中へ進み、そのままスタスタと歩いていく。


「さーて、と!」


 クーンは突如ぐるんと左へ向き、鉄杖を茂みへと突き刺すように構える。

 ガン、と角兎が鉄杖にぶつかり……クーンは掬い上げるようにして角兎を鉄杖で木へと放り投げぶつける。その一撃で角兎は死に……クーンはつまらなそうに息を吐く。


「このくらいじゃあなあ……」

「あざやかだったと思うけどな」

「でもこのくらいじゃ組もうと思えないでしょ?」

「んー……」

「まあ、魔石取ったら次行こうか」


 言いながらクーンは魔石を取り始めるが……そこでキコリは「あっ」と声をあげる。


「そういや角兎の肉って依頼出てたんじゃ」

「やめとこうよ。荷物になるだけで大した稼ぎにならないし……何より、生肉ぶら下げて森の中歩く気はないよ」

「あー……そうか」


 そういえばその問題があった。

 どれだけ処理したとしても、生肉の匂いで何か狂暴なモンスターを呼び寄せてしまうかもしれない。

 その考えはキコリにはなかった。


「あはっ、今のは結構役に立つアピール出来たんじゃない?」

「そうだな」

「あ、本当に好感触」


 クーンが笑い、キコリもつられて笑う。


「じゃあ、もう少し奥行こうか」

「ああ」


 そうして、奥に進んでいく2人だが……不思議とゴブリンに出会わない。


「居ないな、ゴブリン」

「なんか調査チーム派遣するって話あったし……ベテランが片っ端から狩ってるのかな?」


 そういえばそんな話も聞いたな、とキコリは思う。

 実際「調査チーム」とやらの成果はどんなものなのだろう?

 何か森の異変を感知でもしたのだろうか?

 それとも、何も見つけられていないのだろうか?

 考えるキコリだが、すぐにそれに意味はないと気付く。

 上で動く話など、キコリには何の関係もないのだから。

 今は、それよりも。


「ギイ、ギギイ!」


 木の上で騒いでいるゴブリンが1体。

 ズシンズシンと、重たげな音をたてて走ってくるホブゴブリンが1体。

 手甲を着けたその姿は……随分と装甲が増えているが、面影がある。


「……なんかキコリ指さしてるけど。何かやったの?」

「金的、かな」

「そっかあ……」


 怒りに満ちた様子の手甲ホブゴブリンとの再戦が、始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る