俺はそんなのに引っかかりません
クーンと別れた後にアリアの家に……なんとなく慣れてきたのはダメだなと思いつつも戻ってきたキコリは、早速アリアに聞いてみていた。
「あー、なるほど。確かに防衛都市は幾つかありますよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、そりゃまあ。汚染地域と他を分かつ防衛都市と防衛砦壁ではありますけど、国ごとに担当地域が分かれてるんです」
「なるほど……」
なんとなくイメージは出来た気がするな、とキコリは思う。
つまりこの町に来る時に見た無限に思える長さの壁は、複数の国家で管理しているというわけなのだ。
「そもそもキコリ、汚染地域については理解してます?」
「いえ、全然」
「でしょうねえ」
アリアは頷くと、それについても教えてくれる。
汚染地域。正確には魔力汚染地域と呼ぶらしいが……要は異常な魔力が地面に溶けこんでいる場所の総称だ。
そこではモンスターにとって過ごしやすい環境であり、人間にとっては過ごしにくい……体調を崩しやすい環境なのだという。
これを広げないために存在しているのが防衛都市であり、防衛砦壁なのだ。
「分かりました?」
「はい。でも……汚染された原因って何か分かってるんですか?」
「一説ではモンスターの発する何かが原因だとされてますね」
人間とモンスターが敵対関係にあるのも、この辺りが原因で生き物として互いに合わないから……という説もあるのだという。
「まあ、説とは言いましたがかなり有力な説ではありますね。モンスターという存在が確認されたごく初期、対話を試みた人物や村、町、国に至るまで全て失敗していますので」
「そう、なんですね」
「はい。ちなみにこの辺りの知識は冒険者ギルド職員は必修です。今でもたまに『モンスターと仲良くする方法がある』とかいう人が出ますので」
「そういう人って」
「自信満々に死にます。1つの例外もありません。あえて言えば黎明期にはゴブリンに騙されて村ごとゴブリンのご飯になった事もあったみたいです。まだ防衛都市なんてない頃の話です」
「……」
つまり、モンスターと対話の余地はない。会えば必ず殺し合いになるし、それは変えられない。
そういうことなのだろう。
「キコリも騙されないようにしてくださいね? 一時期モンスターの中で『友好的なモンスター』を演じて有利な場所に引き込んで嬲り殺しにする戦術が流行ったくらいですから」
「それは……恐ろしいですね」
「ええ。私は心配です」
もし、キコリが何も知らないままに、そんなモンスターにあったら……どうして居ただろうか?
考えて……真後ろから斧を振り下ろす自分がすぐに思い浮かんで、キコリは頷く。
隙あり、と。そんな事を考えて喜んだに違いない。
「大丈夫です。俺はそんなのに引っかかりません」
けど、流石にアリアにそんな事は言えなくて……キコリは、真面目ぶった言葉でごまかした。
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